また会えたときに

これは、我がオットの遺した手記による、実話に基づいた物語です。

【第一話】プロローグ(scene03) 山下さんの奇跡

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第二話 さゆりさんの奇跡に続く

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Scene03 山下さんの奇跡

 

(SE暖炉の火が燃える音)

(SEコーヒーを飲むカップの音)

 

男性(山下)(声はフェードイン)「そうでしたか、奥様は飯田ご出身ですか。私は中津川からです。山下といいます。今回こちらのお客様をお迎えすることになって、せっかくなら温泉と雄大な星空を楽しんでいただこうと、ご案内して来たんです」

 

私「へえ〜〜でも私、飯田出身でも、阿智村に来たのは実は初めてなんですよ。」

(SEざわざわと雑談する声。ときおりコーヒーカップの音)

ナレーション(私)「このペンションに泊まる客全員がいつの間にか集合し、暖炉の火で暖まった談話室で、コーヒーを飲んでいた。夕食が終わっても外はまだ薄明るく、星が姿を見せてくれるまでの時間潰しにと。皆同じような思いなのだろう。ゆったりとした会話が始まっていた。

白装束の男性を案内して来たという山下さんは、大声で豪快に話す、人の良さそうな男性で、私たちよりも少し若い、50代半ばといった年齢だろうか。ここのペンションのオーナーとは友人で、よく利用しているらしい。

部屋全体で見ると、大きく円をえがくような配置で皆が座っている。山下さんと白い男性の二人組と、若いカップル二人組と、私たち夫婦の二人、合わせて六人。若いカップルは、北海道からの旅行客だった。白装束の男は無言のままだったので、私が我慢しきれず質問する。」

 

(ざわざわと雑談する声。ときおりコーヒーカップの音)

 

私「失礼ですが、何のお仕事を?」


のぶ「こら。唐突に!」


白(冴木)「あ、私ですよね?大丈夫ですよ(笑)ちょっとした講演活動をしておりまして、こちらの山下さんにお声がけいただいきましてね。毎年中津川で講演を企画してくださって、今年も来ることができました。」

 

私「そうなんですね。いやあ、もうあまりにお美しいから、芸能人かとおもっちゃいました!」

 

冴木「いや、まさか。」(笑)

 

ナレーション(私)「白装束の男は、冴木と名乗った。どんな講演をするのかも気になったけど、焦りは禁物。ゆっくりと雑談しつつ真相にたどり着くのを楽しもう。幸い、目の前でおだやかに笑っている冴木さんの顔を見る限りでは、怪しげな団体の教祖には見えない。綺麗な顔立ちで若く見えるけど、40代前半くらいの年齢だろうか。少しの沈黙があった後、山下さんが、唐突に提案した。」

 

山下「いやあ、、それにしても!昨日までは全く知らなかった他人同士が、こうやって一つの場所で交わることって一つの奇跡ですよね。だれかひとりが、今日ここに来ない、という選択をしてしまったら実現しなかった瞬間ですからね。たとえばですが、せっかくなので、”これまで皆さんが出会った奇跡”をここで紹介しあうというのはどうです? 」

私「わ!それっ、面白そう! 」

ナレーション(私)「夫と目を合わせてニヤリと笑う私。夫は、「はいはい、きみの大好物がきたね。」とでも言いたげに、少し肩を上げてニヤッと笑った。」

私「それで?山下さんは、どんな奇跡を体験なさったことがあるの?」

 

(SE暖炉の火が燃える音)
(BGギターソロの音楽)

山下「これを奇跡って言うんだ~という光景に出会ったのは、あれが最初で最後のことです。もうずいぶん昔の話なんですが、30年ほど前でしょうか。

  (SEドライブ車中の音)

九戸(くのへ)街道を家族でドライブしていたときの話です。夏の事でした。Gジャンを羽織り、オレンジ色のヘルメットをかぶった原付バイク乗りの男性が突然、車道の真ん中を走り始めたんです。原付なので、左端を走ってくれれば自動車は追い抜けるんですが、わざと追い越させないようにするわけです。

 

(SEバイクの走る音)

 

そして、何度も左上を眺めて、後ろを確認し始めました。左上に何があるんだろうと、私たちもその方向を見ますが、山を削った谷間を走る街道なので、雑木林しか見えません。

すると、バイクは道路の真ん中を走りながら、左手を斜め下に出し、減速し始めたんです。妻が「止まれって言ってるんじゃあ?」と言ってる間に、バイクは私たちの車を通せんぼする形で、ゆっくり止まってしまったんです。

 

(SEバイクの音が止まり、車のハザードランプ音)

 

後ろからも車がくるので急いでハザードランプを出しました。追い越し禁止区域なので追い越しもできず、ちょっとイライラしながら、停車して急いでこちらに走ってくる笑顔の青年の説明を聞こうと窓を開けた瞬間、

 

(SE車のウィンドウを開ける音に続き、獣が走り去る大音量)

 

(声を大きく興奮気味に)ドドドドっと大きな音がして、左上の土手から土煙が上がったのです。娘は「お馬さん!」と叫んでましたけど、あれはカモシカの大群でした。すごい勢いでバイクの前を通り過ぎて、右手の山へ走り抜けて行きました。

 

(SE大音量が小さくなり消えていく)

 

青年は、それを見て安心したように、また笑顔で何も語らず手でありがとうとごめんなさいの表現をしつつ、バイクに戻り、サーっと走り去りました。私たちはしばらく呆然として、感動してました。そして、目の前で起きた出来事を整理しようとゆっくり車を再始動させたんです。」

 

(SE暖炉の火が燃える音)

 

山下「妻が言うには、あの人はマタギの血を受け継いでる人だと。匂いでわかる人だった。だから、あれが走ってくるのもわかったんだと、勝手な理由づけをしてました。

私は、あの人は未来に起きることが見えたんだと思いました。匂いがあったとしても、まさか車道を横切ってくるなんて、わかるはずがないです。何かの危険があった時、動物たちは群れで一気に走ると聞いたことがあります。その何らかのエネルギーをあの人は察知して、前もって危険を回避したんだと思いました。じゃないと、後続の車をわざわざ止めません。

もし、あそこで停車させなかったら、巻き込まれて、かなりの損害が出ていたと思います。私たちだけではなく後続の車も同じく。動物好きの娘の心にも、傷が付いていたかもしれません。あの時、なぜ追いかけなかったのかを後悔してます。

でも、あの時は、カモシカがもう出てこないだろうか不安で、超ゆっくりスピードで走ったからか、あれから二度とあのバイクと目立つオレンジヘルメットさんには会えなかったんです。」

 

ナレーション(私)「山下さんが話している最中から、目を見開いて、険しい表情で泣き始めていたのは、ベンチソファに座っている女性だった。皆、その話で涙することに不思議で、気になっていた。私もそう。泣けるポイントは一つもなかった。

 

(さゆりの堪え漏れるような声)
さゆり「次、あたしが、、話しても、いいですか?」

 

ナレーション(私)「全員がうなずき、固唾を飲んだ。彼女、北海道から二人旅行中のさゆりさんは、震える声で話し始めた。

こうして、奇跡の夜がゆっくりと幕を開けた。」

 

(暖炉の音が大きくなる)

 

第二話 さゆりさんの奇跡に続く

 

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▼作者・古川祥子(さっちゃん)の日記ブログ▼

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