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Scene01 初恋がやってきた
(SE暖炉の火が燃える音)
(さゆりの語り)
(涙をこらえるような、震える声で始まる)
さゆり「私が、まだ4歳だったときの話です。多分、、、街道で山下さんが出会ったという、カモシカの出現を予測した方は、私が今から話す方と同一人物です。
バイク、Gジャン、オレンジ色のヘルメット。。。その人は、バイクに乗ってではなく、バイクを押してきました。
しかも、とても朝早く。自転車屋を営むうちの店に、恥ずかしそうに入ってきたそうです。」
青年「バイクが動かなくなってしまって。。 いやー、まいりました。こちらは、自転車屋さんですよね。。このバイクを見ていただくことなんて、できないでしょうか。。。」
父「兄っちゃ、どごで止まったんだぁ?」
青年「 一つ手前の電柱あたりで。」
父「すぐそごで!?」
青年「はい( ´ ▽ ` )あちゃー! どうしよう。。と思ったら目の前にこちらの看板が見えて、思わず駆け込んでしまいました。」
父「それは、こごさ入れどいうごどだばー!はははははっ(豪快に笑う)」
青年「日本を旅してまだ2週間ですが、大事な相棒なんです。 」
父「お、そうだ。こごは自転車屋だで。そっただオンボロバイクは投げで、続ぎの旅は自転車にすたっきゃどうだが?はははっ。」
青年「いやああ、、すみません。。この相棒を、、、見捨てるわけにはいかないです。。それに僕、新しい自転車を買うお金も、、、」
父「ふむう(笑)んだな、よっしゃ、いっちょみでやるがのー。兄っちゃは運がいねえー。」
さゆり「本当に運が良かったんです。実家は、老舗の自転車屋でしたが、父はもともとバイクが大好きで、エンジンを分解して中を磨いて元に戻す技術まで持っている人でした。不思議と、この感じのいい青年の頼みに、お金にもならない仕事ながら、気前よくのってしまったそうです。父は、あのふと(人)の笑顔にやらぃだなあ(やられたなあ)と、今でも、酔っぱらうと当時のことを話します。
4歳の私はその時、店と繋がっている、ふすまの閉まる居間で、大好きなうさぎのぬいぐるみのミキちゃんと、人形遊びをしていました。お店で父が誰かと、楽しそうに会話しているなと思いながら。
母は朝から勤めに出ていたので、帰宅する夕方までは、いつも父の目の届くところで遊ぶ毎日でした。」
(SEバイクのエンジンを解体修理する音)
父「兄っちゃ、わりぇばって、こぃ一日かがるど思うはんで、娘ば見でおいでぐれねが?」
青年「娘さんを?わかりました!」
父「さゆりー。わんつか(ちょっと)出でおいでー! 」
さゆり「私は、とにかく当時、人見知りも激しかったものですから、お客さんが来ているときに、お店に出て行くことは絶対ににありませんでした。でも、居間でその人の声を聞いているときから、なんだかとても懐かしいような暖かいものを感じていて、どんな人なんだろう? と気になっていたんです。ですから、父に呼ばれた時も、自然に体が動いていました。襖を開き、居間から顔を覗かせると、その人は、その細い目で、とろけるような満面の笑みで声をかけてくれました。
青年「あ。さゆりちゃん? おはよう〜〜。僕ね、お父さんにいま、お仕事お願いしてるの。ごめんね。お父さん今からとっても忙しいから、その間お兄ちゃんと遊んでくれる?」
さゆり「押し付けがましくも、わざとらしくもない、とても自然で、優しくて、絶対の安心感を感じる声かけでした。初めて会う人に、あんな感情をもったことはありませんでした。私は、ゆっくりと頷いて、ゆっくりと居間から降りて靴を履き、お兄ちゃんの元へと移動していきました。
お兄ちゃんは私のその姿を、頷きながら、声には出さず、
襖をちゃんと閉められたねえ。すごいね。
高いのにちゃんと自分で降りられたね。すごいよ。
お靴もしっかりはけて、すごい!
あらあら、可愛い歩き方。いい子だ〜!
と言わんばかりの表情で私を迎えてくれました。しゃがんで私を見るその目に吸い込まれるように、身悶えながら近づいていきました。それが、私の初恋になりました。」
▼作者・古川祥子(さっちゃん)の日記ブログ▼