また会えたときに

これは、我がオットの遺した手記による、実話に基づいた物語です。

【第三話】けんごさんの奇跡 (Scene3) 奇跡の連鎖

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また会えたときに【1話から順番に再生されます】


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Scene03 奇跡の連鎖

 

(SE暖炉の火が燃える音)

 

けんご「その1年半後。僕が誕生しました。一度生まれようと試みましたが、失敗して、お兄ちゃんにに背中を押されて二度目の挑戦をして、成功して生まれてきた、というわけです。

自分で言うのもおかしいですが、奇跡です。

母がお兄ちゃんに声をかけてからのタイヤ交換。そして水子地蔵の会話から夫婦が救われた、その衝撃的な出会いから数ヶ月後、お兄ちゃんから、お礼の手紙とお金が届いたそうです。タイヤ2本の値段と工賃が多めに入っていたそうです。

そして、そのお金が届いた翌日に、母の妊娠がわかったそうです。父は、お兄ちゃんのことを忘れないようにと、水子地蔵石の横に、ちょっと大きめの丸い石を並べました。授かった感謝を込めて置いたのだそうです。僕も物心ついた時から、そこに手を合わせてきました。

ちなみに背中の傷は海の岩場ではなく、海の見える山で起きました。木の実を取ろうとして滑落したのです。父は慌てず、いつも持ち歩くようにしていた消毒液で傷を洗浄し、塗り薬で応急処置をしてくれたので、大したことはなかったのです。これがその時の傷です。」

 

(SEけんご、ガサゴソと上着をめくる)

 

山下「おおお!見事な傷だ~」

 

けんご「そしていま、ひょんなご縁で出会ったさゆりさんとお付き合いするようになって、来年僕たち結婚するんです。」

 
のぶ「それはめでたい!」

私「ひょんなご縁って?」

 

けんご「僕の父の17回忌に、昔のバイクレース仲間と、メンテ仲間の皆さんをご招待したんです。そこに、お父さんと一緒についてきたのが、さゆりさんです」

 

私「ちょっと。。さゆりさんのお父さんをバイクメンテナンスの道に向かわせたのって、確か。。」

 

山下「お兄ちゃんだ!」

 

一同「おおーーーー!」

 

山下「いま大人になったあなたたちが、こうやって一緒にいるってことを、バイクのお兄ちゃんが知ったら、驚くだろうね。」

 

さゆり(泣き声まじりに)「お兄ちゃんが、けんごさんと出会わせてくれたんだね。けんごさんのお父さんとお母さんに、そんないきさつがあったなんて、知らなかった。」

 

けんご「今まで、不思議な話しすぎて誰にも言えなかったけど、今夜ここで、お兄ちゃんの話ができたこと、さゆりさんの初恋の人がそのお兄ちゃんだったこと。しかも、初めてお会いする山下さんも出会ったことのある人だった。このこと自体が、奇跡。」

 

山下「いやあ〜〜なんてこっちゃ。こんなことって、本当にあるんやなー。。」

 

(SEコトンッ。冴木が持っていた木箱をテーブルの上に置く音)

 

N私「冴木さんが、それまで大事そうに膝の上に置いていた木箱を、テーブルの上に置いた。両手は変わらず大切そうにその箱の上に乗せている。

その仕草を、不思議そうに眺めていた私と目が合った。けんごさんの話の途中から私の様子が挙動不審になっていったことに、彼は気づいていたのかもしれない。実際、私には全く無関係、と思っていた話が、途中から自分の記憶とリンクしてくる驚きで、心臓が大きく波打つのを感じていたのだ。

私の斜め前に座っていた冴木さんには、私の表情が著しく変わっていったことに、気づかれないはずがなかった。」

 

冴木「奥様のお話は?奥様のお話も、ぜひお聞かせいただけませんか。」

 

N私「ゆっくりと微笑みながら、私に話しをするよう促した。それは決して高圧的ではなく、嫌な感じもなく、むしろ、”さぁ、なんでも受け止めますよ”というような、穏やかな口調だった。

けんごさんの話を聴いている途中から、自分の記憶をなぞってみて、あることに気づいていた私は、自分のことを話すのはためらいつつも、話すべきなのだろうという使命感も感じていた。

少しの間の沈黙に、夫が心配そうに私の顔を覗き込む。

大丈夫。

夫に向かって私は軽く頷いた。

そして、冴木さんの言葉に誘導されるように語り出した。」

 

(SE暖炉の火が燃える音)

 

私「私の奇跡といえば、今の私のルーツともいえる、あの経験しかありません。主人にもまだ詳しく話したことのない、帰省先の飯田での、人形劇の青年との出会いがあります。でも、それをお話しする前に、知っておいていただきたい悲しい事実があります。

今から30年前の夏、そう、おそらく山下さんがバイクの青年に遭遇したのと同じ年。さゆりさんが初恋のお兄ちゃんと出会った年。バイクの青年がけんごさんのご両親のお店にやってきた、その年。私はひとりで飯田に帰省していました。その時の私は、頭に包帯と眼帯姿という、みるも無残な、それはそれは痛々しい格好でした。。


その3ヶ月前、娘が死にました。


さゆり「え・・・」

私「ごめんね。こんな話をして」

さゆり「あ、いえ。大丈夫です。聞かせてください(もう泣きそう)」

私「ありがとうさゆりさん。

3ヶ月前。娘は、市民温水プールでのスイミングクラブで泳ぎ、帰り道の駄菓子屋でアイスクリームを買いました。暑い日でした。店の外に出たところで、軽トラックが歩道に乗り上げ突っ込んできて、娘の小さな身体は二つに折れ、塀に叩きつけられて顔は潰れ、あっという間にこの世から出ていってしまいました。その突然の出来事を知ったのは私が看護師として勤めていた病院でした。

悔やんでも悔やみきれない、悶え苦しむような時間が私を抑え込みました。

いなくなって思うことがたくさんありすぎて、後悔よりも強い慚愧(ざんき)が私を襲いました。

なんであの子にもっと優しい態度で接しなかったのか。お弁当には好きなものをもっと入れてあげればよかった。夜中、起きてきて私の布団に入ってきた時、一人で寝なさいと、なんで部屋に戻しちゃったんだろう。もっと抱きしめてあげれば良かった。もっとたくさん話しておけば良かった。一緒にできることたくさんあったのに、もうできなくなっちゃった。

思い出して泣き、忘れようとして自分を責め、苦しみの波の中で泣いてばかりいました。初七日が終わり、私の人生も一区切りだと思い込んだとき、電車を見ていたら衝動的に飛び出してしまいました。でも、助かってしまった。。。」

 

(SE暖炉の火が燃える音が大きくなる)

 

 【第四話】私の奇跡Scene1 へ続く

 

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▼作者・古川祥子(さっちゃん)の日記ブログ▼