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Scene02 人形は生きている に続く
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Scene01 飯田人形劇カーニバル
(SE暖炉の火が燃える音)
(祥子の語り)
私「あのとき、私が飛び込むのを察知した学生さんが、私のカバンをとっさに掴み引き戻してくれたおかげで、身体は無事だった。
けれど、頭だけが電車に衝突。ホームが騒然となって、電車は停車。耳が裂け、右目は視神経が繋がったまま眼窩から飛び出し、おびただしい血だまりが少しずつ範囲を広げていく。
うっすらと残る意識の中で、安堵している私がいました。これで死ねる。救急搬送され、緊急手術。眼球は戻ったが、光は戻らず。耳も片方が聞こえなくなり、陥没した頭蓋骨もそのまま。顔半分が腫れ上がり、病院に駆けつけた主人は茫然自失でした。」
のぶ「君まで失ってしまったら、僕はもう無理だ」
私「掠れた声でつぶやく声は私の左耳からかすかに聞こえ、左目から流れる涙で、病室の天井の小さな丸い穴がぼやけて溶けていく。
死ねなかった。
そう。。死ねなかったという悲劇は私の心をさらに壊していきました。一人になりたい。
安静期間を過ぎ、包帯がまだ取れない状態で、半ば強引に退院させてもらい、逃げるように帰省しました。
それがちょうど、今から30年前のことでした。そんなおり、飯田の名物『人形劇カーニバル』のニュースが流れ、私の心に触れました。
今年もやるのか。。うん。行ってみようか。
近所の公民館では、人形制作ワークショップが始まるところでした。顔中包帯づくめの私をみて、受付の女性が少し怯むものの
「どうぞ!こちらに名前を書いて、胸に貼りましょう!」
と、サインペンと白い名札シールを渡されました。参加してみようかどうか、まだ決めあぐねていましたが、周りの人につられ、シールに名前を書きました。
しめすへんに、羊と書いて、祥子。固い名前。父が付けた名前です。幸子じゃなくてよかった。幸せを奪われることになった自分には相応しくない。
そんなことを思いながら名札を胸に貼りました。でも、、、どうぞ!と渡された布と毛糸。それを見てすぐに私は立ち上がってしまったのです。」
(SEガタガタっと、椅子から立ち上がる音)
私 「あ、、ごめんなさい。やっぱり、いいです。すみません。」
私「逃げるようにその場を去り、ああ、やはり出てこなければ良かったと後悔しました。娘との悲しい思い出が、布と毛糸を見て、急にこみ上げてきたんです。」
回想(リバーブ効果で回想とわかる)
みぃちゃん「お母さん。この布と毛糸で何作ると思う?」
私「う~~ん何かしら」
みぃちゃん「(嬉しそうに体をくねらせながら)楽しみにしててね!」
私「しかし、それができる前に娘は死んでしまった。頭から振り落とすつもりで早歩きし、足はいつしか、子どもの頃よく遊びに行った神社に向かっていました。
心を落ち着けたかったんだと思います。
駐車場の横から階段を登りました。横目に、小さな可愛いバイクと、無造作に置かれたオレンジ色ヘルメットを眺めながら。
階段の先にある境内の方から微かに声が聞こえました。ここでも人形劇をやっているようでした。飯田の人形劇カーニバルは、期間中、市内いたるところを会場にして、人形劇が行われているんです。」
(回想終わり)
(SE森の中、鳥のさえずり 人形劇の声 子供たちの笑い声はまだ遠い)
良太 「あ~あ。ヤンなっちゃうな~」
(SE子どもたちが爆笑してる声がだんだん近くなる)
良太 「どうしても食べなくちゃいけないのかなあ。」
子供たち「食べなあかん!」「大きくなれんよ!」
良太 「ええ~~~どうしても?」
私「え?子どもたちと会話してる。人形劇ってこんな感じだったかしら?
境内に着いた私は、子どもたちやその親たちが靴を脱いで座っているブルーシートから、少し離れた木陰に入りました。おそらく青年?であろう黒子の声は若く透明で、周りの空気に美しく響き渡っています。
大声で人形に話しかける子どもたち。
笑顔で見つめ合う親子たち。
それを見ながら、微笑んでいる自分がいました。」
良太「嫌いじゃないんよ。大好きなんだ!大好きすぎて、、、食べられない。」
(大根登場)
良太「あ、大根くん、おはよう。」
大根「おお~!良太くん、おはよう!ん?どうしたんだい?浮かない顔をして」
良太「いいんだ。大丈夫。。。あれ?にんじんさんは?」
大根「あ、にんじんさんは、今日はカレーの日だからね。今は鍋のなか。」
良太「え!そ、そうか。。じゃあゴボウさんは?」
大根「ゴボウくんはお寝坊さんだからまだ起きてないと思うよ」
ごぼう「ひどいなあ。もう起きてるよ~」
私「え?ここでゴボウが出てくるの?青年の手は二本しかない。なのに、どういうしかけになっているか、ゴボウが登場してしばらくしたら、まさかのニンジンまで、幽霊風に空を飛んで出てきたんです。
どうやって操っているの?不思議な人形劇に、私の心は少しパニックになりました。」
良太「みんなを食べたら、、、死んじゃうんでしょ?(泣きそうに)それに、噛んだら痛いよね?(痛そうに)」
ニンジン「(伸びのある透き通る声で)私たちはね、人間に食べられて天国に行っても、死んだんじゃないの。
人間が、私を美味しそうに食べてくれて、その栄養が人間の体に吸収されて、その人間がまた野菜を育ててくれて、買ってくれて、そして、また美味しい美味しいと食べてくれるの。だからつまり、人間の一部になるのよ〜」
大根「良太。そんなことで悩んでいたのか!ぬっはっは!」
ゴボウ「そうかそうか。痛いと思っていたのか。ハハハ!」
ニンジン「優しい子。。私たち野菜は、噛まれると、それぞれが違った音を出せるの。それは、音楽なのよ。人間が私たちを噛むと、感謝の音楽になる。音楽の後は、人間が動くことができるよエネルギーに変わっていく。神秘的で素晴らしい時間が、食べる時間なのよ」
~歌~
大根「そうさ~!俺たちやさいは 音楽だ」
ゴボウ「やさい~ 僕たちやさいは エネルギー」
ニンジン「やさい 私たちの願いは みんなの笑顔と健康」ほら良太も歌って
良太「野菜♪ うん食べるよ 音を鳴らして シャキ! ポリン! ザク!」
大根「シャキ!」
ニンジン「ポリン!」
ゴボウ 「ザク~!」
大根 「さあみんなも一緒に歌おう!シャキっポリンっザク~!」
観客全員で シャキっポリンっザク~!シャキっポリンっザク~!シャキっポリンっザク~!シャキっポリンっザク~!
良太「僕、今日から野菜を食べられる。みんなの歌声を胸に、今日から野菜と一緒に音楽を奏でるんだ。そしてそれをエネルギーにする!元気を出して生きるんだ!」
私「背中がジワーっと熱くなりました。その良太の絶叫が、神社の結界を破り、飯田の街に浸透したかのようでした。BGMもなし、舞台背景は神社の森の木々、一人で一挙4体の人形を操ってのお芝居は、今まで観た中で一番驚いたし、一番楽しかったし、一番感動しました。」
青年「みんな~ありがとう~!最後まで観てくれたね~!あー嬉しい!」
私「青年は、本当に嬉しそうに、舞台袖から子どもたちの前に出て挨拶を始めました。次は1時間後にまたここでやるよ~!お友達を連れて見にきてね~!と笑顔でアピールしています。
もう一度観てみたい。この青年の人形劇を今日は堪能しよう。久しぶりに胸が高鳴る時間でした。」
▼作者・古川祥子(さっちゃん)の日記ブログ▼