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Scene01 羅針盤
(SE暖炉の火が燃える音)
N私「談話室は静かだった。暖炉の中の火が、ときおりパチッパチッと鳴る音と、さゆりさんの小さくすすり泣く声だけが響いていた。」
(さゆりのすすり泣く声)
さゆり「ごめんなさいっ。私、、涙が止まらなくって! うううっ」
私(ときおり込み上げる涙をこらえるように)「私こそ、なんだかごめんなさいね。しんみりしちゃったわね。けんごさんのお話で、あんなに興奮してみんな盛り上がったのに。。。
でもね、本当に奇跡だったのよ。私にとって、あの飯田での人形劇は。そして、主人のもとに帰ってきたタイミングでの娘からの誕生日プレゼントの人形。そう。人形は生きているの。飯田で見た、あの人形たちと同じ。」
N私「私の右隣で夫は、夫がいつも肌身離さず持ちあるいているセカンドバッグにつけた、おかっぱ頭のマスコット人形を、ギュッと握りしめていた。私はその手に、そっと自分の右手を重ねた。」
私(独り言のように)「あの青年が言っていた、人形にはちゃんと命があって、それを作った人の心が入り込むという話、これは本当だ。話しかけるとだんだん答えてくれるようになる。そして、成長もする。歳もとる。だから、この人形もそう。これは、娘の魂そのものなの。お母さん。いつも見てるよ。ずうっとずっと、大好きだよ。って言ってくれているの。」
N私「そう。私はあのとき、椅子についていたあの子の髪の毛を、この人形の胸のポケットに入れた。丸めた髪の毛を糸で縛り、小さくまとめて入れてある。これで、私とあなたはいつも一緒だと。これは、夫にも誰にも話していない、私だけの秘密。」
のぶ「その青年が、皆さんが出会った青年と同じ人だったというのかい?」
私「ええ、おそらく。最初は気がつかなかったんだけど、けんごさんの話を聞いていて、途中から、そう、お地蔵様と青年の会話を聞きながら、思い出してきたの。
ああ、あの青年の面影にイメージが似ているなと。そう思いながら、30年前の人形劇のことを回想していたら、確かに思い出したのよ。
あの日、神社の階段の下の、駐車場隅っこに、見慣れない小さなバイクと、オレンジ色のヘルメットが置いてあった。間違いないわ。」
のぶ「思し召し、、、かのう。」
山下「なんて不思議なことか。そうか。私が出会った青年のバイクには、確かに後ろに大きな荷物が積まれていたよ。長旅の荷物だろうと思っていたが、あれには人形や劇の道具なんかが入っていた、ということか。
それにしても、、、不思議な話だ。なぜ今夜、こうやって私たちが、ここに集うことになったのか。」
さゆり(泣き声を堪えながら)「ほんとに、、私、今日のこの日を一生忘れません。皆さんと出会って、そしてみなさんが同じ人との奇跡を共有しあっていたと知れたこと。これまでは、あの思い出を、奇跡とまでは思っていませんでした。よくある幼い子供の淡い初恋ですから。でも、こうやって今日、皆さんとの不思議な接点を知って、あの思い出は奇跡だったんだと知りました。」
N私「けんごさんが、そっとさゆりさんの肩に手をかけ、優しく頭を撫でた。」
(SE暖炉の火が燃える音)
N私「しばらく続いた沈黙を、冴木さんが終わらせた。ゆっくりと、穏やかな、でも少し緊張したような言葉で。」
冴木「皆さんに、見ていただきたいものがあります。」
N私「冴木さんの手は、目の前のテーブルにおかれた、木箱の上にあった。大事そうに、両手を箱の上に重ねている。いよいよこの箱の中身が知らさせる時が来たんだと。全員が固唾を飲むように、冴木さんの手の下の木箱に注目した。」
冴木「今日、やっと答えが見つかりました。私がずっと探していた答えを、皆さんが今日ここで教えてくださったのです。」
N私「そう言って、手を震わせながら、ハラハラと涙をこぼした。そのあまりの美しい光景に、思わず見惚れてしまったのは、私だけではなかったはずだ。
そして、彼はゆっくりと木箱の蓋をあけ、とても大事そうに、愛おしそうに、一冊の本を取り出したのだった。冴木さんが大事そうに木箱から取り出した一冊の本は、表紙はさほど古くはないもののようだった。
表紙には「羅針盤」というタイトルが細く美しい文字で書かれていた。何度も読み込まれたことが、ひと目でわかるくらい、本は少しふっくら膨らんでいる。」
▼作者・古川祥子(さっちゃん)の日記ブログ▼