また会えたときに

これは、我がオットの遺した手記による、実話に基づいた物語です。

【後書き】5 哀愁の登別(のぼりべつ)

けんごさんのお話の3日前の物語。のぶさんに聞いた話と、のぶさんノートと、福井の友人とのやり取りと、私の想像力でまとめてみる。

野田さんは、青函連絡船に乗り北海道に渡ります。そこから登別(のぼりべつ)のオロフレまで走り抜いていきます。青森のさゆりさんのお父さんに直してもらった手作りカムは順調に機能して、時速20キロ以上出してはいけないルールを守り、風の強い黄金道路も、何もなくて美しい襟裳岬も、神秘の洞爺湖も超え、登別。

ここでいったん止まった理由は、賑やかなお祭りが目に留まったかららしい。しかし、もう終わりかけ。

 

公民館にバイクを置いて祭りの屋台を練り歩く野田さんは、小さな公園の半分を埋め尽くす舞台に着目。人形劇がしたくなる。いったんバイクに戻ろうと、踵を返すと声がかかる。

「にいちゃん。どっからきたんね?」

村のお爺が、野田さんに向かって話しかけた。ちなみに、野田さんは、誰かれ声をかけられてしまう性質があり、歩いているだけでどんどん声がかかったり、ものをもらえてしまえたりするので、友人からは一目置かれていたらしい。(一緒にいるとおこぼれに預かれるということで)

「大阪からです!」

おおそれはそれは遠いところから!すごい距離を走ってきたなー!なんと、あの原チャリで!え?所持金そんだけ?これ最後のビールや。全部持ってけ!泡だらけやけどビールには違いない!あらら、あかんな。じゃ、ツーカップや。ツーカップビール泡や。しばらくしたら一杯分や!!!


と、爺の後ろにいた3人のおじさんに、ビールサーバーでビールの泡だけをいただき、しばらくしてそれを合わせてみても、一杯の半分にも満たなかったがそれでもうまそうにすすった。

するとアナウンス。

「えーっ!司会のマナベです(バフッバフッ)入っとる?(入っとらーでー!)お、んだば今から、審査員長からのギョーム連絡な。あと30分で祭りも終わります。みなさん。できるだけ、自分で出したごみは、自分で持って帰って始末するように。(うたえー!)え?(おめーうたえー!)いやいやいやいや、おいら歌はだんめだー(最後に盛り上がるやつうたえっちゃーこのヤロー)いやいやいや。(今回のオケタイは棄権ばっかりでー)あ、それはもう終わったことで(ヤオチョー!)いやいやいや(チャリンコ結局おめーの親戚当たってばよこのヤロ)汗。汗。汗。いや、それはたまたんま(ヤオチョー)」

「かせっ(お!審査員ちょー!)この酔っ払いガー!わかった。そこまで言うなら白紙にもどさでよ。そのかわりおめーも出てこい!出るやつは並べ!審査員はここにいるむらんしゅ全員じゃ!」

祭りはクレーマーの一言でヒートアップ。審査委員長と呼ばれた人は、怒っている様子はなく、面白いことになってきたとばかり、司会にマイクを渡しながらニッコニコ。

野田さん、泡を舐め尽くして何が起きたんだ?とボーッと立ってたら、さっきビールをくれた3人衆が、あんたも出てこい。旅の思い出、旅の思い出( ̄▽ ̄)といって、野田さんをステージ前のエントリー席に無理やり座らせてしまった。

すぐさま、曲名を聞きにきたメガネの男子に、伝えたのは二曲。

夢芝居。と銀座の恋の物語。

銀恋は、もしアンコールがかかったらこれかけてくれる?とお願いして。メガネ男子は黙って頷いた。アンコール曲を伝えてしまうところが野田さんの図太いところ。

まずは、夢芝居だ。梅沢富美男のヒット曲。

この選曲が当たった。

5人の出演者の最後の最後、自分で前奏の語りをした。それでもう、観客の心をガッチリ掴んでしまった。


イントロ ジャーンジャジャジャジャジャジャ〜ン、ジャージャーン、ジャージャ〜
「登別!この土地で根を下ろし、毎日汗水たらして働いて登別!母ちゃんに、あんたの稼ぎじゃ足りないんだよと叱咤激励登別!(いよっ!)父ちゃん一大決心して、わかったよ!そんじゃ出稼ぎ行くぞ東京へ!(いけいけっ!)東京行くならシャネルの五番をとルイビトンを買ってけーれとお母ちゃん。ああ、むなし。登別の夢はこれで散るのか父ちゃんよ。踊れ歌え。その悲しみをこの声に乗せて。ああ、むなしきこの世はああ夢芝居。(拍手喝采)」

伏目ガチに歌を歌いながら、踊り歌い、おばちゃんたちに手を振りながら流し目を切る動作。笑いと歓声が入り混じって異様な雰囲気に。

さっきのクレーマーおじちゃんが立ち上がって急に舞台に登ってきたが、それにも動じない野田さん。肩を組んで一緒に歌いたいおじちゃんを女性に見立て、追いすがってくるのをギリギリで避けつつ、観客からの笑いをとりつつ、最後はしっかり抱きとめて、照明の方に指をさして頷いて涙する演技をする。

観客は皆、痺れに痺れたわけだ。

ステージに向かって審査員長が野田さんに向かって歩いてくる。明らかに君が優勝だと言わんばかりに。

商品の自転車を自ら持って。割れんばかりの拍手の渦。

しかし、野田さんはマイクをそのまま借りて言い放った。

「ありがとうございます!この自転車は、僕は持って帰れないのです!バイクで旅してますので、残念!嬉しいけど!!なので、僕の独断と偏見で、この自転車をこの中の誰かに、差し上げたいです!!」

また歓声が上がる。今歌った人たちに向かって「いいですか?これ、あげちゃっても?」というジェスチャーに、出演者はどうぞどうぞと満面の笑顔。実はこの人たち、祭りの実行委員の盛り上げ役だと知ってか知らずか。

商品は、当時としては、なかなか良い自転車で、女性が軽々と乗りこなせるという新製品だった。

「えーーーーっと、、、」

しばらく眺めて、指をさした。

「あ!うん。あのお母さんだ。これ、使います?」

観衆から少し離れて立っていた初老の女性が、首を振った。横に。

「あれ?使わない?」

すると観客の中から、今日のオケタイの優勝者じゃー!と声が上がった。

恥ずかしそうに俯くお母さん。ヤオチョーと言われてさぞ辛かったであろう。

「それなら尚更、これをもらう権利がある!よかった!じゃ、一緒に歌いましょう。みなさん、もう一度お母さんの歌を聞いてください。」

メガネ男子はスタンバっている。うなずく野田さん。即イントロが始まる。マイクは一本。

舞台を降りてお母さんを手招きし側に来させ、お母さんを横に引きつけながらマイクを通さず、耳打ちする。

「一緒に歌ってください。旅の思い出なんです」

うなずくお母さん。

言わずとしれた名デュエット。銀恋。

二人で歌うシーンは、マイクを顔を近づけて歌う。

終わってみれば大喝采の嵐。自転車にそっとさわりながら、お母さんとニッコリ微笑み合い叫んだ。

「登別最高!!!ありがとうございました!この自転車は、お母さんに預けます!今度また僕が来るまで預かっておいてください。お願いします!」

拍手喝采。全員が、それを認めた。みんなが納得した。

全てが終わって、ゴミ拾いのお手伝いと、テントをバラすお手伝いをしていたらまたあの3人組がやってきて、にいちゃん。大人気やったのう〜。と大絶賛。公民館の中にある風呂に特別に入らせてもらったり、余った焼きそばとか、焼き鳥を大量にいただいたり、青年団が作ったというワッペンを頂いたりと、何かと貰い物のアメあられ。

その後も、旅は続き、夜中の暴走族との関わりや、京都からの旅人(自称北海道の達人)との出会いや、野宿先で朝起きたとき馬のよだれまみれ事件とか、様々な経験をしながらけんごさんの物語へと進んでいく。

あら。気付いたら3000文字を超えてるわ。。これは読んでいただくのもしんどい文字数になってますね。。長くなって申し訳ありません。筆が乗っちゃいました。。

後書きの方が長くなりそうなので、これらの話は割愛させていただきますねあしからずごめんなさい。もし、お知りになりたい方がいらっしゃれば、リクエストにお答えして、いつか書かせていただく所存です。よろしくお願いいたします。


【後書き】6 野田さんからの悲鳴 に続く