また会えたときに

これは、我がオットの遺した手記による、実話に基づいた物語です。

【第二話】さゆりさんの奇跡(Scene03)大丈夫大丈夫大丈夫

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【第三話】 けんごさんの奇跡へ続く

<第一話から通しで視聴される方はこちらから>

また会えたときに【1話から順番に再生されます】


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Scene03  大丈夫大丈夫大丈夫

 

(SEエンジンをふかす音が大きくなっていく)

 

父「兄っちゃ、これで完璧だー! バイクのエンズンまでなおすてまう自転車屋なんて、すごぇびょん!」

 

青年「あー、、、なんてお礼言ったらいいか。おじさん、すごいです!ありがとうございますっ!これでまたお前と旅が続けられるぞ!」

さゆり「そういって、バイクを愛おしそうに撫でて、父と喜びあっているその横で、私はお兄ちゃんのGジャンの袖をぎゅっと握っていました。行ってしまう。この人がいなくなってしまう。

 

私は行かないでアピールを全力でしました。気づいて!気づいて!と思いながら。お兄ちゃんは、私のへの字口を見て、わかってくれたのと同時に、複雑な顔をして、しゃがんでくれました。そしてこう言ったのです。

青年「さゆちゃんにプレゼントがあるんだ。手を出してみて。」

さゆり「私は、何をくれるんだろうと少しドキドキしながら、手を出しました。お兄ちゃんは、私の後ろから抱きしめるように、私の左手をそっと自分の掌に乗せました。そして、私の手の平に、何やら書き始めたのです。」

青年「今はわからないだろうけど、覚えておいて。このかんじ。」

さゆり「くすぐったくて、気持ちが良くて、でも意味がわからなくて。でも、お兄ちゃんは、何度も繰り返し、私の手のひらに文字を書いてくれました。


それがなんの文字だったのかがわかったのは、小学校4年生のプールの時間でした。私は小さい頃から水が怖くて顔がつけられませんでした。もちろん泳げません。その時、先生がおまじないを教えてくれたのです。プールの周りにある、カラカラに乾いたブロック塀に、プールの水を使って文字を書きました。

 

先生「みんなこっち見て~!この字。大 丈 夫。だいじょうぶ。と書きます!もし、水が怖くて泳げなくてもいい。足がつかなくなって、焦って水を飲んだとしても大丈夫!先生が、必ず助けてあげるから!心配しなくても、大丈夫!そして、みんな泳げるようになります、大丈夫!安心して、水と一緒に遊びましょう!」

 


さゆり「そこで記憶がグワングワンと回りだして、もう記憶も薄くなりかけていた、あのときのお兄ちゃんとの光景を一瞬で思い出したのです。あの時、4歳の私の手のひらに、お兄ちゃんが書いてくれた文字が見えました。」

 

青年「さゆちゃん。さゆちゃんが、これからいっぱい幸せになりますように。ずっと笑顔でいられますように。かわいいまんまで大きくなれますように。そのおまじないの言葉だよ。悲しいことがあっても、辛いことがあっても、だいじょうぶ。ちゃんと、その後にいいことがあるからね」

 

さゆり「そう言いながら、何度も書いてくれた言葉が、大丈夫。大丈夫。大丈夫。でした。私は、その日、突然水が怖くなくなり、中学、高校と水泳で賞をもらえるほどになったくらい変わりました。

私は、お兄ちゃんから、永遠のおまじないをもらったのです。今でも、大事な時は、手の平に大丈夫、と書いて自分を救い続けています。」

 

(SEバイクのエンジン音)

 

青年「本当に、本当に、ありがとうございました。でも、本当にお金はいいんですか?」

 

父「さゆりがこったらに喜んでぐれで、がっぱ遊んでもらって、じぇんこは取れねよ。それより、久々にバイクをいじれて、俺が楽すがった~~!」

 

さゆり「お兄ちゃんがヘルメットをかぶった時、私は胸が潰れてしまうかと思いました。お兄ちゃんは、何度もお礼をいいながら、私に向かって何かを言っているのですが、私には何も聞こえなくて。

 

最後に、父にもう一度お礼を言って、私に手を振りました。私は、父に抱っこされていましたが、いやいやをしてなんとか振りほどき、お兄ちゃんに触れたくて突進しました。心と体がもつれていたのでしょう。転びそうになりました。でも、転ばなかった。お兄ちゃんがいつの間にか、バイクから降りて、私を抱き止めてくれていたのです。私は、自分の出せる全力で、お兄ちゃんを抱きしめました。

 

さゆり(4歳)「(大泣きしながら)行がねで! 行がねで!行がねでーーーーっ!!」

 

さゆり「何度も叫びました。それにつられたのか、お兄ちゃんも私をギュッと抱きしめてくれて、ゆっくり私の肩を支えながら真正面で顔を見合わせました。お兄ちゃんの目も潤んでいました」

 

青年「さゆりちゃんのことは一生忘れないから。大丈夫。幸せにおなりよ。」

 

さゆり「そう、目の前で力強く言ってくれた時、あたしも忘れね!と、泣きながら心に誓っていました。私は、父に引き離され、バイクに乗ったオレンジ色のヘルメットと、Gジャンのその人は、大きく手を振りながら走り去りました。」

 

(SEバイクの走り去る音)

 

さゆり「私はその夜、眠るまで泣き続け、仕事から帰ってきた母も困惑していたそうです。胸が張り裂けそうな思いをしたという記憶はよく覚えています。

 

ところが、実はこの一件で、一番変化したのは父だったんです。自転車屋をやめたんです。そして、バイクのレストアの店を立ち上げたんです。もともとバイクが大好きだったけども、当然のような流れで老舗の自転車屋の跡を継いでいた父が、一大決心をしました。そして、その判断は大成功しました。お店は大きくなり、一軒家も建てることができました。

 

あの日、突然の訪問者によって、得意なバイク修理をすることになって、改めてバイク好きな自分を思い出し、夢を追ってみたくなったそうです。あの人と屈託のない会話をしていたら、なぜだか無性に、全てがうまくいくようなイメージが広がったらしいです。

父は、「あのふとのおがげで、今があるなあ」と、酔いながら、あのたった一日の奇跡を、今でもよく話します。私は父とのその時間が一番好きです。」

 

 

(さゆりのすすり泣く声)

(SE暖炉の火が燃える音)

 

私「素敵なお話。さゆりさんの宝物ね。」

 

(さゆり少しずつ泣き止みながら)

 

さゆり「はいっ! お兄ちゃんに会いたいですっ! あのときもらったおまじないのおかげで、水泳が得意になったこと。どんな時でもがんばれたこと。笑顔でいれたこと。

 

保育士の仕事を選んだこと。いまけんごさんと一緒にいれて、幸せだってこと。お兄ちゃんに伝えたいです。」

 

N私「さゆりさんは、涙でくちゃくちゃの笑顔で、けんごさんを照れ臭そうに見つめた。その姿に、ここちらまで気恥ずかしいながらも、微笑ましくて幸せな気持ちになった。

 

でも、見つめられたけんごさんは、それ以上に高揚して落ち着かない様子だった。」

 

けんご(話したくてうずうずした感じで)「っていうか、信じられません。。。次、僕がお話してもいいでしょうか。。。僕の話も、多分、、、その人です。オレンジ色のヘルメット。」

 

さゆり(小さな、悲鳴のような驚きの声)「ひぇっ?」

 

N私「全員のざわつく声を、冴木さんが遮った。」

 

冴木「どうぞ。ぜひお聞かせください。」

 

けんご「はい。さゆりさんのお父さんと、私の父はバイク友達同士で、昔からお世話になっていまして、同じように自転車屋を営んでおったんです。父から聞いた話なので、私は会ったことがないんですが、父は亡くなる前の日まで、そのお兄ちゃんのことを、あ、父もその人をお兄ちゃんと呼んでいたので、僕たちもお兄ちゃんと呼んでました。いつもお兄ちゃんとの会話の内容を話しては、懐かしそうに笑っていたので、僕の記憶に定着していって、今では家族の中では、伝説の人となっています。

 

僕がまだ産まれる前のこと。お兄ちゃんは、我が家に、一つの大切な希望を残して行ってくれました。」

 

N私「そして、けんごさんが奇跡を語り出した。」

 

(SE暖炉の火が燃える音が大きくなる)

 

【第三話】 けんごさんの奇跡へ続く

 

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▼作者・古川祥子(さっちゃん)の日記ブログ▼