また会えたときに

これは、我がオットの遺した手記による、実話に基づいた物語です。

【第三話】けんごさんの奇跡(Scene01)ハプニングを楽しむ男<音声ドラマ>

⇦ <前回のお話し>

音声ドラマは、こちらからご視聴いただけます👇

soundcloud.com

出演者/制作スタッフ/スポンサー

 Scene02へ続く

<第一話から通しで視聴される方はこちらから>

また会えたときに【1話から順番に再生されます】


<Podcastでのご視聴はこちらから>

f:id:sachiko1375:20210610093341p:plain f:id:sachiko1375:20210610093355p:plain f:id:sachiko1375:20210615123520p:plain
f:id:sachiko1375:20210610141140p:plain
  f:id:sachiko1375:20210612101317j:plain f:id:sachiko1375:20210612220145j:plain

 

==================================

 

Scene01 ハプニングを楽しむ男

 

(SE暖炉の火が燃える音)

 

けんご「父と母から何度も聞いてきた話ですが、不思議な話すぎて、人に話すのは初めてです。さゆりさんにももちろん。僕の実家は帯広です。父と母は、さゆりさんのご実家と同じく、小さい自転車屋を営みながら、十勝エリアの50ccのバイクレースのお手伝いをしていました。

ある日、母が買い物から帰る途中の出来事です。様子がおかしい50ccバイクを追い越しました。なんか変だなあと、思いながら母は、一旦素通りしたそうです。もしかして、パンクしてたのかな?と気付き、車を止め、そこで待ちました。すると、バタバタバタと大きな音を立てて若者が走ってきます。通り過ぎる時、よく見ると、やはり後ろのタイヤがパンクしていたそうです。

可哀想に、、、。その道をまっすぐ行ったとしても、パンクを直せるところはどこにもありせん。母は、走ってるバイクの後ろから近づき、横に並び、オレンジ色のヘルメットを被ったバイカーに声をかけたそうです。」

 (SEスロースピードのパンクのタイヤ音と、車の音)

母「ねえー! パンクしてるの、わかってるー? タイヤー!」

青年「はい!わかってますー! (笑)パンクしたままで、どこまで行けるのか、試しているんですー!(笑)」

けんご「元気で開き直ったような爽やかな笑顔で、明るく答える青年を見て、母は、もしかして、ちょっと頭がおかしいのかしら、と正直思ったそうです。」

母「でもそれだとダメだわ。うちおいで~!あそこの角、左に曲がったらまっすぐね。看板あるから!あ、自転車屋ね~」

青年「え!自転車屋さん!?(驚きながら)必ずぜったい寄らせていただきます!」

けんご「心配しながら店先で待っていた二人の元へ、こんにちわ~と現れた若者。パンクしているのにもかかわらず、とても嬉しそうだったと父が言っていました。」

父「うーーーーん。ホイールまでいかれてるかーー。こりゃダメだ。」

青年「ですよねえ。(笑)」


けんご「まるで、こういうハプニングを楽しんでいるかのような声のトーンに、この若者はやはり変だ。と二人して思ったそうです。普通、タイヤがパンクしたとなると、人はガッカリしているか、怒ってるもので、喜んでいる人はいませんからね。

父は少し悩みました。実は、このときのお兄ちゃんのバイクは古い型のもので、タイヤのホイールの大きさが特殊でした。しかも、アウトロード用のゴツゴツしたタイヤ。普通のバイク屋には置いてないし、手に入れるのもなかなか難しい代物でした。

でも、実はなんと父は、そのバイクに合う大きさのタイヤを持っていたんです。それも、その前の日に、レースを世話にしているチームの方から、たまたま二本、購入していたのです。バイク屋にさえなかなか置いていないタイヤが、こんな片田舎の、しかも自転車屋に、たまたまあった。。。もう奇跡は始まっていたのです。」

父「にいちゃん、お金、ある?」

青年「はい!あります! 」

 

(SEガサゴソとポケットをまさぐる音)

 

青年「あぁ、、一万円くらいはあったと思ったんですが、もう七千円しか持ってないや。。。これではタイヤ代も修理代も、、足りませんよね。。。」

けんご「当時、タイヤがレース用で1本1万円くらいの相場だったそうです。足りません。残金七千円を払ってしまったら、一文無しになってしまいます。」

父「よっしゃっ。金は後でええっしょ。二本とも変えっぺ!」

母「え?二本ともっ?」

父「な、いいっぺよ」

けんご「母は、ギョッとして、次のレースに使うためにせっかく仕入れて来たタイヤなのに、しかも高いのに!と、少し難色を示したそうです。裕福ではない我が家でしたので、母の反応ももっともなことでした。しかし父は、若い青年の困っている姿を眩しそうに眺め、作業に入ってしまったそうです。」

青年「 お金は後から必ず送らせてもいらいますので、、」

母「そだねー。困った時はお互い様だからね。」

父「にいちゃんは学生さんかい?田舎はどこよ。酒は飲めるかい?」

 

 Scene02へ続く

f:id:sachiko1375:20210422201928j:plain

 

 

▼作者・古川祥子(さっちゃん)の日記ブログ▼