また会えたときに

これは、我がオットの遺した手記による、実話に基づいた物語です。

【第三話】けんごさんの奇跡(Scene2)僕は生まれたい

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また会えたときに【1話から順番に再生されます】


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Scene2   僕は生まれたい


けんご「父はたわいもない質問をしながら、手際良くタイヤを取り外し、新しいタイヤをつけていきます。くわえタバコを燻らせながら。

父が二本目のタイヤに取り掛かろうとしたとき、お兄ちゃんは音もなくすっと立ち上がり、ふわりと何かを探すように外に出ていったそうです。しばらくして戻ってきたのですが、店の中に入るのではなく、店の横にある物置の横を抜けて、裏庭に入って行きました。

母は、その姿を流し場の横から見ていたそうです。手には小さな野の花を持っていました。お兄ちゃんは、その花を、庭の大きな石の中程にある窪みの、小さな石にたむけたのです。

流し場にいた母は、すりガラスのむこうに映ったお兄ちゃんの姿を見て、思わず息を飲みました。その小さな石は、僕の両親にしかわからない、大切な意味のある石だったからです。なぜそこに、花を手向けるの?この人は何を知ってるの?母は、その後ろ姿をこっそり見ながら、心がざわめいてくるのを抑えるのに必死だったそうです。お兄ちゃんはそこで、何かを喋り始めました。小さな声でした。母は、その声を聞きたくて、勝手口まで移動しました。

 

青年「さっきからどうしたん?(聞こえないくらいの小さい声で)ねえ。なんで泣いてるん?」

 

けんご「母は、愕然としました。泣いてるって?石が何かを答えるはずもなく。静かな時が流れました。母が見たのは、水子地蔵に見立てた石の前で、その水子と会話をしているお兄ちゃんの姿でした。

つまり、お兄ちゃんは、見えない小さな魂との交信をしていたというのです。母が語ってくれた、お兄ちゃんと石との会話は、僕にとっても衝撃で、でもなぜか懐かしくて、このくだりを初めて聞かされた時は、なぜだか涙が溢れて止まりませんでした。

 

青年「言ってみ。なんで泣いてるん?お母さんに?会いたかったって?誰のこと?ここの?おかみさん?ああお母さんね。そうか。会いたかったのに会えんかったんや。。。それは辛かったねえ。ん?お母さんは悪くないって何が?」

 

M母「(心の声)違う。私が悪い。2年前のあの事故は、私のせいだ。私の不注意だった・・・」

 

青年「もう一回おいでよ。今度は大丈夫。こっちの世界は色々大変やけど、おもろいぞ~。え?僕は?・・・・生まれたい。。。お母さんとお父さんに会いたい。んやね。分かったで。」

 

けんご「母はもう涙と震えが止まらず、電話機の横に置いてあるティッシュを取ろうとしたら、店と家の廊下がつながっている場所で号泣している父と、目があったのだそうです。それを知らずにお兄ちゃんは続けます。」

 

青年「なんていう名前になる予定やったん?それだけおしえて~」

 

(SE鳥の声)

 

青年「けんご!か。いい名前や。またいつか会えるといいなあ(しみじみと)」

 

けんご「父と母は、お兄ちゃんと僕、との会話を遮るように庭に出て、父が、いかつい手で小石を抱きしめ、その手を母が包み込んでしばらく二人で泣いたそうです。お兄ちゃんは、驚きもせず、二人の肩をさすりながら、涙を全部出させてくれたそうです。

後々語っていたのは、その時は不思議すぎて訳がわからなかった、と言ってました。でも、初めて出会った若者が、付けようとしていた子どもの名前まで言い当てることができるわけもなく。この人は、けんごが連れてきた天使か何かだと思ったそうです。世の中にはそういう人もいるんだと、なんの疑いもなく信じることができたそうです。その時母は、泣きながら微笑みながら僕(石)に向かって言いました。」

 

母(嗚咽を堪えながら)「ごめんね。けんご。待っていてくれたんね。ごめんね。あの時はな、言い訳になるけど。。すごい風の日やったんよ。階段降りてる時に、日傘なんてささんとけば良かったんよ。10段落ちて、気を失って、気がついたら、病院であなたを失ってた。。。」

 

父「お母さんはな、自分を責めてな。私のせいで、お前の命を終わらせたと言って。私にはもう子供を産む資格はないって・・・」

母「そう。。もう子供は作らんとこうって。ね。」

青年「きっと次は大丈夫ですよ。けんごくん、そんなお母さんの気持ちを知っていて、心配してました。でもね、二人に会いたいんです。生まれたがってます。その手で抱いてあげてください。そのけんごくんが、少し大きくなって、元気いっぱい走り回れるようになったとき、もしかすると海の岩場で背中を切ってしまうかもしれません。

そんな時も慌てず、病院へ行けば大丈夫です。そういうことが色々ありますが、子育てって、色々あるのが普通ですから。その傷は、いい思い出になっていくものですから。可愛くて可愛くて仕方ないですよ。子どもって、本当に可愛いもんです。

あ、そうだ。けんごくんが大人になったらきっと、素敵な女性と恋愛して、幸せな人生をおくれますよ。そうですねえ。けんごくんの喋り方から推察すると、、ちょっと年上の、しっかりした姉さん女房かもしれませんね。きっと甘え上手で、可愛い性格だから、けんごくん、愛されますねぜったい。

うん。。お嫁さんのことも、お母さんお父さんもきっと気に入る、可愛らしいお嬢さんなはずです。だからね。お母さんも、その心の傷は、思い出として後で笑えるように、もう一度。ね。けんごくんを迎えてあげてください。」

 

けんご「父と母は頷きながら、未来予想までサービスしてもらって驚きつつ、肩を抱き合いながら堪え泣きしたそうです。お兄ちゃんは、少しでも二人の不安を取り除こうと、言葉を尽くしてくれました。それが分かってますます泣けたそうです。」

父「(鼻をすすって)金は後でええと言ったけど、金はもうええわ。これ、兄ちゃん、もらっといて。このタイヤが偶然にもここにあったのは、兄ちゃんのために用意されてあったんだわ。そうに違いないわ。」

母「そだね。そうしてください。こんな偶然はないわ。お兄ちゃんのタイヤやったんやわ。」

 

青年「いえいえそういうわけにはいきません!こんなピッカピカのレース仕様に進化させてもらって、バイクが喜んでます!うちに帰ったら必ずお金送りますから、値段を教えてください!」

けんご「お兄ちゃんはしつこく金額を聞いてきたのですが、父は教えなかったそうです。お兄ちゃんは、深々と礼をして、このご恩はいつかお返しいたします。と言って、去って行ったそうです。」

 

 Scene02 奇跡の連鎖へ続く

 

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▼作者・古川祥子(さっちゃん)の日記ブログ▼