また会えたときに

これは、我がオットの遺した手記による、実話に基づいた物語です。

【第四話】私の奇跡 Scene02 人形は生きている

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また会えたときに【1話から順番に再生されます】


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Scene02 人形は生きている

 

私「一時間後、私はまた同じ場所に訪れました。青年の人形劇は、他の劇団にはできないことをしました。だから次が観たくなる。

 

その理由は、演じる人形劇の内容が、違うからです。次はどんな内容で楽しませてくれるのか、二回目が終わり、また1時間後。劇の45分はあっという間なのに、次の人形劇を待っている1時間が長くて長くて。


内容は、良太が野菜を食べられるように成長して、他の野菜たちの悩み事を解決したり、観客との会話劇があったり。良太の独り言のみのバージョンがあったり。それでいて飽きない。

ほぼリピートして来ている観客たちは、すでに、良太が何を言っても笑うようになっていました。

最後の回、観客の人数は初回の倍は集まっていました。青年は、黒子を被らず顔を出したままでした。表情が見えます。良太の顔は青年の右手でぱくぱくと口が動き、手についている棒でクネクネと腕を操ります。まるで生きているかのように。

青年はやがて、腹話術で良太と会話を始めました。」

 

青年 「良太くんはこの飯田に来てよかったかい?」

 

良太 「よかった~!!!!」

 

青年 「うん。そんな顔してるね!何がよかったの?」

 

良太 「ここにいるみんなに会えたこと!一番嬉しかった!」

 

青年 「うんうん。嬉しかったね!他には?」

 

M私「だんだん観客も参加し始める。みんなの一番を発表し始める。それを良太が感動し、青年が褒める。その繰り返しです。面白い!そう思った時、不意に、私にも質問が来ました。」

 

良太 「お姉さん。お顔、痛かったでしょう。早く治るといいね!」

 

私「え?私?う。。

 

どう返せばいいのか、、、咄嗟のことで言葉が出てきませんでした。すると、」

 

青年 「良太くん。お顔も痛かったのかもしれないけど、もっと痛かったのはきっと心なんだよ。」

 

良太 「心?」

 

私「心?」

 

青年 「そう。心。怪我したときに痛いのは体なんだけど、そうなってしまった自分のことをバカだったな~、とか、あの時もっとこうしていればこんな怪我なんかしなくて済んだのに、とか。

 

周りの人にも辛い想いをさせて、私のバカばかばかって思っちゃうんだ。」

 

良太 「へえ~。人間って大変だね。」

 

青年 「おいおい。君も人間だろ?」

 

良太 「僕人形~~~」

 

(SE会場の笑い声)

M私「私は笑えなかった。心が痛い。そう。心が痛いのだ。ずっと痛かった。

 

私が娘を殺した気がしてならなかったから。

女性として、しなやかな筋肉をつけて欲しくて、はやりのスイミングを勧めたのは私。頑張ったらアイスクリームを買っていいよとお小遣いを渡したのは私。もう一人で行って帰って来れるでしょ?と言って突き放したのも私。

私が娘を死に追いやったんだ。私は悪魔」

 

青年「違うよ!」

 

M私「え?」

 

青年「良太くんは人形の形をしている人間なんだよ。僕たちは一緒。人間だ。

人間の君は、今朝、大発見をしたんだよね。

野菜を食べることができなかったのは、噛むと野菜が痛がるんじゃないかと思って噛むことができなかった。

野菜のみんなは、それは違うよと教えてくれた。音楽になって、エネルギーに変わると。」

 

良太「う、うん。そう・・・だよ」

 

青年「つまり、人間は思い込んで間違ってしまうものなんだ。」

 

良太「思い込んで間違う?あ、そういえば、僕はそんな間違いばっかりや!」

 

青年「それでいいの!間違えばいい!思い込んで考えすぎて、やってみたら全然違うことになったっていい!」

 

良太「でもそれじゃあ周りの人に迷惑かけることにならん?」

 

青年「迷惑はかけてもいいんだよ。

わざと相手を傷つけたり、暴力を振るったりして迷惑かけるのではなく、自分が信じてやったことや、思い込んで頑張ったことや、考えて動いたことで間違えたことは、謝ればいい。

ごめんなさい。と言えばいいの。

どんなに間違えたっていい。

君は君らしく、いつも本気で生きろ!」

 

良太 「わかった。僕は僕らしく!」

 

M私「その瞬間、私の中で何かが弾けました。私は私らしくでいい。間違えたらごめんなさいと言えばいい。許してくれる人がいる。主人の顔が思い浮かびました。私、、帰らなきゃ。答えが出てきたのです。

全ての人形劇が終わった後、私は、声をかけようと、後片付けをしている青年の近くに寄っていきました。すると、」

 

青年「祥子(さちこ)さん、ですか?」

 

M私「近づいてくる私に、青年が気づいて声をかけてくれました。ワークショップの名札がついたままでした。

私の名前を、初めて会った人に、さちこ、と読んでもらったことがなかったので、どきりとしました。」

 

私「はい。さちこです。。今日は、ありがとうございました。」

 

青年「あ、いえ。こちらこそ、最初から最後までずっとご覧いただいて、ありがとうございました。心強かったです!でも、失礼しました。包帯のこと、うちの良太が振ってしまって。。」

 

M私「はにかみながら答える青年の、心根の優しさと、人形劇に対する情熱の強さが、にじみ出ていました。この話し方は、人形劇とは違う、素の自分を隠さない、いや、隠せない不器用さも見える。

持っている人形を近くで見ると、全てボロボロで、手縫いで手作りのものでした。」

 

私「これ、全部ご自分で作ってらっしゃるの?」

 

青年「はい。ミシンがないんで(笑)」

 

私「いえ、お上手です。本当に生きているように見えました。」

 

青年「あ、この子たち、生きてるんです。

人形にはちゃんと命があって、それを作った人の心が入り込みます。話しかければ、だんだん答えてくれるようになってくるんです。撫でれば喜びます。たたけば痛がります。そして、成長もします。歳もとります。人形って、、、すごいんです」

M私「人形が生きている。というよりも、操る人が生かしているのだ。心が、手に伝わって、人形が喋ったり、飛んだり跳ねたり寝転んだり、泣いたり笑ったり怒ったりと感情豊かに表現される。

 

子どもたちはその人形に釘付けにされて、世界観にどっぷり浸かって大満足している。人形がすごいのではなく、あなたがすごいんです。と、思いながら、伝えることができなかった。」

 

私「青年は、慣れた手つきで後片付けをしながら、この場を去り難い子供たちの質問に丁寧に答え、お母さんからの子育ての質問にも答えたり、おじさんに今日の夜飲みに来いと誘われたりと、忙しいことになっていました。

私は遠慮して、彼の名前を聞くこともなく、大事な劇団名も知ることなく、その場から立ち去りました。でも、この胸に彼からのメッセージがしっかりと刻まれました。温かいものが私に沁み込み、そして私の心は、少しだけ強くなったのを感じました。

あの小さいバイクに乗って、次はどこで人形劇をするのだろう。

 

どうぞご無事で、と祈るばかりでした」

 

Scene03 娘からのメッセージ へ続く

 

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▼作者・古川祥子(さっちゃん)の日記ブログ▼