また会えたときに

これは、我がオットの遺した手記による、実話に基づいた物語です。

【第五話】冴木さんの奇跡 Scene02 あなたは伝える人

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Scene02 あなたは伝える人 

 

(SE暖炉の火が燃える音)

(冴木の一人語り)

 

私が、この本に出会ったのは、今から8年前のことです。

それまでの私は、大学で心理学を学び、臨床心理士の資格をとり、いくつかの会社を掛け持ちで、企業内カウンセラーの仕事をしていました。

それぞれの会社には、保健室のようなカウンセリングルームがあって、社員の皆さんの、仕事や人間関係の悩みをお聞きする仕事です。悩みなどなさそうに見える人でも、カウンセリングの時間を割り当てられ、何かお悩みはないですか? 困っていることはないですか? と声をかけると、何もない人なんていないのです。皆さん、大小あれども、なにかしらの問題を抱えているものでした。

当時の私は、まだ30そこそこでしたので、主に新入社員や若手の社員たちを担当して、カウンセリングにあたっていました。20代のサラリーマンの悩みには、人間関係であったり、プライベートな家庭の問題、人生について、生き方そのものに悩んでいたりと、さまざまなものがあります。

私は、少しでもそんな人たちの助けになれる心理士でありたいと思い、勉強もしましたし、たくさんの本も読みましたし、参考になるようなインターネット記事も、同じような仕事をされている人たちのブログもよく読んでいました。

そんな中で、とくに夢中になって更新を楽しみにしていたブログがありました。それが、この本の著者、龍雅(りゅうが)さんとおっしゃる方のブログです。

龍雅さんのブログは、「神様」と呼ばれる高次元な存在との対話がベースとなった、いわゆるスピリチュアルな内容のものでした。私は仕事柄、スピリチュアルな相談事をもちかけられることも多く、それなりに勉強してきていましたが、龍雅さんのブログは、それまで読んできた本やブログとは、一線を画すものを感じました。

言葉に嘘やでまかせがなく、真摯さが文章からも伝わってくるのです。神様との対話を通じて、筆者本人が成長していく様子も、自分ごとのように感情移入できました。ときには、読者の悩み事に答えるその内容も、私が大学で学んだ、一辺倒なありがちな回答ではなく、新しい考え方で、しかもずしんと腑に落ちるものばかりでした。

私は、本来は宗教や霊的なものを信じているわけではありません。龍雅さんの書くブログも、神様が登場しますが、それは読者に興味をもってもらい、理解しやすくするための、一種のエンターテイメントなのだと理解していました。

それでも、そんな私でさえも、本当にこの人は神という存在を知っているではないか? と思い込ませるような、、、それほど興味深いブログだったのです。

私は、毎日更新されるそのブログを欠かさず読み、過去の記事は何度も読み返し、すっかりファンになっていました。

ファンといっても、龍雅さんは、一切のプロフィールを公開していませんでしたから、文章の雰囲気で、私は勝手に、初老の穏やかなおじいさんをイメージしていました。

そんなとき、そのブログが書籍化されることになったと、龍雅さんの記事で報告があったのです。出版記念に、講演会とサイン会があると。

私は、すぐさま参加申し込みをし、当日は興奮を抑えきれず、かなり早い時間に講演会場に着いたのを覚えています。

開場時間前についてしまったので、私は受付手前にあるベンチ椅子に座っていました。受付の後ろには、講演会場の扉が開いていて、中では客席の準備がまだ終わっていない様子でした。

何人かのスタッフが、パイプ椅子を並べているのが見えました。その中の一人の男性と、目が合い、条件反射で軽く会釈をすると、その人は、作業の手を止めて、にっこり微笑んで深々とおじきをしてくれたのです。

40代半ばくらいに見える、感じのいいスタッフさんでした。そのあと、講演が始まって、はじめて、そのときの男性が、龍雅さんご本人だったと知ったのです。

講演会は小さな会場で、100人ほどの定員で満席になっていました。龍雅さんは、子どものころの経験談や、ご両親のお話、ブログを書くにいたった経緯などを話されました。

その話の中には、大学時代に小さなバイクで日本一周したというくだりもあったことを、さきほど皆さんのお話を聞きながら思い出しました。

初老のおじいさんではなく、龍雅さん、実際には42歳の、体格のよい優しげな中年男性でした。少し白髪の混じった短髪と口髭が、品の良さを際立たせており、太めのフレームのメガネが、知的さも表しているようでした。

落ち着いた低い声で、ときたま笑いを誘うように、ご自分の失敗談を交えながらの1時間。講演が終わると、そのままの会場でサイン会も行われました。

ほとんどの来場者がサインを求め、長蛇の列ができている中に、私も並びました。あらかじめ購入して、もうすでに何度か繰り返し読んだ新刊、この「羅針盤」を手に持って。龍雅さんと直にお話をしてみたかったのです。こんな機会はもう二度とないでしょうから。

龍雅さんは、並ばれているお一人お一人に、丁寧に声をかけながらサインをされていくので、なかなか行列は進まず、途中からは出版社のかたが、時間を区切って声をかけるようになっていました。30分ほど並んだでしょうか。いよいよ私の番になりました。

龍雅「今日は、早くから来てくださっていて、ありがとうございました。長くお待ちいただいてしまって、すいません。」

冴木「とんでもないです。講演、素晴らしかったです。ブログはいつも拝見していますが、こうやって生でお話聞けるなんて、感激です。ありがとうございました。」

開場前に、私と目が合ったことを、覚えてくれていたのです。

龍雅さんは、にっこりと笑って、私をじっと見つめてきました。そして、私の差し出した本の表紙をめくり、メッセージとサインを書きながら、こう言ったのです。

龍雅「あ。講演、よかったですか。ありがとうございます。でも、あなたにもできますよ。あなたは『伝える人』ですからね。ぜひ、がんばってください。大丈夫です。」

そう言って、サインを書き終えた表紙を閉じ、私に返してくれました。言ってくださった言葉の意味を聞きたくて、声を出そうとしたとき、出版社の人から終了の合図がありました。私は慌てて、握手だけもとめ、変わらずにっこり微笑んでいる龍雅さんに、後ろ髪引かれる思いで、会場を後にしたのです。

私は興奮しました。龍雅さんにかけてもらった言葉で、私はこの人に認められたんだと思ったのです。すると、不思議なもので、これまでにない自信が底からわいてくるのを感じました。

それから私は、講演の仕事を積極的にするようになりました。これまでのカウンセラーの仕事を活かし、より多くの人の悩みを少しでも軽くできるような活動をしたいと、ひたすら上を目指してきました。善を行い、人を助けることを常とし、だれからも認められる人になろうと。

「羅針盤」はその後も何度も何度も読み込みました。今では開かずとも全ての章を言えるくらいです。講演では、ときたまこの本の言葉を、我が事のように語ったこともありました。


あなたは伝える人。


龍雅さんに認められたと過剰に思い込み、偉そうに人に教え、伝えてきたのです。伝える人になるには、勉強しなくてはいけない。誰よりも秀でて、誰よりも努力をして、誰よりも素敵な生き方をして見せなくてはいけない。

と上を目指し探し続けてきたのです。

 

でも、私が探し当てるべきものは、それではなかった。。

あの日、龍雅さんには、見破られていたんです。今の私のこの高慢な姿を。格好つけていた私に対する、警鐘を先に鳴らしてくれていたのです。

それが今日やっとわかりました。

ここにいる皆さんが触れ合ったバイクの青年は、偉ぶることなく、ごく自然に、自らの力を誇示することもなく、皆さんを助け、心を救っています。押し付けることをせず、流れのまま、ありのままの自分で、ありのままの相手を認めて、笑顔で去っていく。

それこそが「本当の伝える人」なのです。

それを今日、私は気付かされました。

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 【第五話】冴木さんの奇跡 Scene03 龍雅 へ続く 


▼作者・古川祥子(さっちゃん)の日記ブログ▼