また会えたときに

これは、我がオットの遺した手記による、実話に基づいた物語です。

【最終話】そして、奇跡は続く Scene02 また会えたときに

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また会えたときに【1話から順番に再生されます】


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Scene02 また会えたときに

 

(野田さんへ送ってあったメールの朗読)

 

M私「メールの内容はこうだった。

野田さんへ

こんにちは、古川の妻です。主人がいつもお世話になっております。

完成した歌の音源、聞かせていただきました。何度も何度も聞いています。
主人とふたりで「ええ歌やね~。ええ歌や。」と、何度も言い合いながら♪
今回は、このような機会を与えていただいて、本当にありがとうございました。

主人から、

「あの野田さんが、ライブイベントで歌えるオリジナル曲を作りたいらしい。母親の気持ちを表現した歌詞を書いてくれる人を探しているそうなんだ。書いてみないか?」

と話を持ちかけられたとき、歌詞を書いた経験もない私にできるだろうか。と躊躇いたしました。しかし、なぜでしょう。私の中の何かが、くすぐられたのです。

野田さんにとっては、ご迷惑になるだけかもと思いましたが、採用いただかなくても、一度自分の中の、娘への思いを整理するためにも、歌詞を作ってみたいと思ったのです。

歌詞をつむぎだすのに、当時のことを思い出し、思い出しては涙し、その思いを詩にして涙し、そうやって繰り返すうちに、どんどん記憶が鮮明に蘇ってきました。30年も前のことですのに。

娘のことを少し書かせてください。

30年前の春、当時9歳だった娘は、大好きだったスイミングクラブの帰り道で、軽トラックに轢かれ、あっけなく私たち夫婦のもとからいなくなってしまいました。そう、あまりにも突然に。

娘が逝ってしまってからの一週間は、一日も早く、どうやって後を追おうかと、そればかりを考えていました。そしてある日、電車を見ていたら衝動的に飛び出していました。しかし、助かってしまったのです。

野田さんとお会いした時に、褒めてくださった私の右目の傷は、その時のものです。貴方様が「宇宙みたいで綺麗だ」と言ってくださった言葉は、いまでも私の宝物です。自分の大嫌いなこの傷を褒めてもらえるなんて、初めてのことで、とても嬉しかったのです。ありがとうございました。

死にきれなかった私は、主人に合わせる顔もなく、顔の包帯も、眼帯も取れないまま退院させてもらい、実家に逃げ込みました。そこでもまだ、どう死のうかを考え続けていました。

そんなおりローカルテレビで、飯田市で毎年夏に開催される、人形劇カーニバルのニュースが流れてきました。そのとき突然、どこかで娘の笑い声が聞こえた気がしたのです。風に乗って、開け放った窓から聞こえてきたのか、どこかでやってる人形劇の観客の声なのか。テレビを思わず消しました。

耳を澄ましても何も聞こえない。聞きたい。聞きたい。娘の声を聞きたい!転がるような高い声で笑う娘の笑い声。笑顔。私を嬉しそうに見つめる満足そうな顔が思い浮かんできました。

そうだ。人形劇を娘にも見せてあげよう。私が見て、それを天国で話して聞かせてあげれば良いんだ、だから観にいこう。

そう決めてすぐ外に出て、歩き、たどり着いた近所の神社で、溌剌と人形劇をしている青年に出会ったのです。それによって私は生気が甦り、主人のもとに帰る決心がつき、仕事に復帰することができたのです。

青年の人形劇は少し特殊でした。他にもたくさんある劇団の公演は、一つも見ず、その青年の人形劇だけを追っ掛けました。彼の5回の公演の演目は全て違っていて、しかし全て同じテーマでした。

「どんな自分でもいい。人に何を言われても私は私を生きる。」

そういう内容でした。

5回とも、劇の内容も詳細に覚えています。私はあの時のあの青年の人形劇を見ていなかったら、また死のうとしていたかもしれません。思えば、飯田でのあの公演が、私のルーツになっており、私の人生に大きく関わっていて、今回もまたこの歌詞の制作が私を救ってくれました。

あの人形劇の青年に、人形には命があるということを教えてもらい、私は私を許せばいい、私のままでいいと伝えてくれたことで、私は命をいただきました。

そして今、その教えを守ったまま、この歌詞が書けました。それが翌日、歌となって完成し、送られてきました。これを聞いた時、主人と私は、声をあげて泣きました。自分の書いた歌詞がメロディに乗っているだけでも感動したのですが、娘の声が途中で一緒に歌っているのが分かったのです。

ほんの一瞬ですが、わかりました。ちなみに、コーラス部分ではありません。私たちにしか聞こえない周波数だと思います。野田さんが、娘と一緒に歌ってくださったのだと思っています。

どれだけお礼を言っても足りないくらいです。メールでは書き切れないほどの感謝です。いずれ、また逢えたときに、ちゃんと伝えますね。

でも何度でも言います。

ありがとう野田さん。これからも、ずっとずっと応援しています。

ありがとう。ありがとう。ありがとう。  古川さちこ

 

(曲「また会えたときに」♪)

あなたが作ってくれた

フェルトの人形は

今でもカバンにつけてるよ

 

錆びた鈴は鳴らなくなったけど

揺れて笑ってくれている

 

その艶やかな髪

小さなくちびる

かた頬のえくぼ

細い目と長いまつげ

 

想い出は繰り返し波のように

私の中で押し寄せては引いていく

 

消えないで 消えないで

 

あなたと一緒に 見たい世界があるんだから

あなたと一緒に 感じたい喜びを

あなたと一緒に 夢を見る時間をたくさん

作れると 思っていた

 

あなたが作ってくれた

フェルトの人形に

今日も 話しかけてるよ

 

あなたは何にも 

答えてくれないけど

静かに聞いてくれている

 

誰からも愛されて

少しわがままで

でも憎めない仕草で

全部許せてしまう

 

想い出は繰り返し波のように

私の中で押し寄せては引いていく

 

醒めないで 醒めないで

 

あなたと一緒に 見たい世界があるんだから

あなたと一緒に 感じたい切なさを

あなたと一緒に 思い悩む時間を

あなたと一緒に 抱きしめたかった

 

人形を両手で包み込み

 

あなたを感じながら

 

今日も誓います

 

どんなに辛くても

どんなに悲しくても

どんなに苦しくても

私は 生きます

 

生きて 

笑顔で 生き切って

 

いつかまた会えた時

人形の背にある言葉を

直接言って欲しいの

 

「ダイスキダヨ」って

 

私もあなたが大好きよ

 

大好きよ

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お母さん。ダイスキダヨ


最後までお読みいただきまして、ありがとうございました。


【後書き】奇跡は誰にでも起こせるってこと へ続く


 

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【最終話】そして、奇跡は続く Scene01 野田さんの奇跡

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また会えたときに【1話から順番に再生されます】


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Scene01 野田さんの奇跡

 

(SE暖炉の火が燃える音)

 

N私「全員の興奮が収まるのにしばらくかかったが、談話室は再び静かになった。冴木さんは、本の表紙をそっと閉じて、ゆっくりと、大事そうにまた木箱に戻した。」

 

けんご「改めて考えると、お兄ちゃんは、海を割ったわけでも、砂を金に変えたわけでもないけど、でも、あきらかにここにいる全員の人生に影響を与えてくれた。。。これが本当の奇跡、というものなんでしょうか。。」

 

のぶ「そういうものだと思います。奇跡なんて、実はどこにでもあって、後からそうだと知るのだと思います。いや、もともとはごく普通のできごとでも、関わった人がどう変化したかによって、それが、やっぱり奇跡だった、、というように変わっていくもんなんでしょうねえ。」

 

私「ちょっとのぶさん!寝てるんかと思うくらい静かやったのに、最後の最後にええこと言うやんかえ~!」

 

(SE一同笑)

 

マスター「みなさん、そろそろ外に出てみませんか? 遅くなるとますます冷え込んできますからね。今日はまた、一段と美しい星空ですよ。」

N私「ペンションのマスターが、頃合いを見計らったように声をかけてきた。大きなトレイに、6つのタンブラーと、ポットを2本。見るからに温かい。」

マスター「外は寒いですから、しっかり防寒して出かけてくださいね。あったかいコーヒーと、ホットワインを用意しました。どちらかお好きなほうをお持ちください。」

N私「そういって、ひとりひとりのオーダーを聞いて、コーヒーかホットワインを入れたタンブラーを渡していった。私とのぶさんは、ホットワインをいただいた。」

のぶ「僕はダウンコートを部屋から取ってくるから、少し待ってて」

私「うん。ありがとう。」

N私「そう言ってホットワインを一口。美味しい!じわりと五臓六腑に染み渡る♪思わず顔がほころんでしまう。全員が外に出てしまったが、のぶさんはまだ戻らない。外から聞こえる感嘆の声を聴きながら待つ。」

のぶ「すまんすまん。セーターも着とこう。」

私「あ、さてはスーツケースひっくり返したまま来たなー?」

のぶ「それよりそれを早く着て、外に行こう。すごいぞ」

(SEペンションの玄関ドアを開ける音。カランカランッとドアベルが鳴る)(BG雄大な音楽)

 

私「ぅぅぅわあぁぁぁぁーーーっ!!」

 

N私「玄関を出た瞬間、上を見上げずとも視界に飛び込んでくる満点の星空に、私は思わずのけぞった。

セーターの上に、茶色のカーディガンを重ね着した上に、ダウンコートを着込んで、ホットワインの入ったタンブラーを両手で持って、小走りに外に出た。ペンションの前は、広い庭になっていて、いくつかのベンチが置いてある。庭の隅のほうには、手作り風の東屋もあった。

先に外に出ていた、さゆりさんとけんごさんらしき人影が、東屋のテーブル席に座っていた。玄関の横には、6畳ほどの広いデッキがあって、4人がけのテーブル席が2つ置かれていて、山下さんと、ペンションのマスターがそこに座って、ワインを飲みながら何やら楽しそうに会話している。冴木さんの姿は見えなかった。そのあたりを散歩でもしているのだろう。」

 

私「少し歩かん?暖炉で体が暖まっとったけん、冷たい空気が気持ちええで。」

 

のぶ「そうじゃの。気持ちええな。しかししっかり冷え切ったほうが、このあとの露天風呂がより楽しみになるわのう。さあ、どんどん冷えよう」

 

私「冷え切るのはイヤじゃ。私は10分じゃの。」

 

(SE細かな砂利の上を歩く二人の足音)

 

のぶ「よし。10分で満喫しよう。」

私「フフッ。あなたはそうやって、いつも勝手気ままな私に、振り回されながらも、それを良しとして、ポジティブに楽しんで、私に合わせてきてくれたね。感謝してるんよ。

あれから30年経ってさ、あの頃の思いを歌詞にして、それが歌になった。30年がんばって生きてきた私たち夫婦へ、天国のみぃちゃんからのご褒美なんかな~と思うてよう。

だから今回のこの旅は、あのとき私が一番苦しかった時に、勇気をくれた青年に、時を超えて、お礼が言いたかったのもあるんよ。明日、飯田のあの神社に一緒に来てくれる?」

 

のぶ「ああ。もちろんじゃ。一緒に行こう。」

私「私ね、、今回の奇跡のお話で思い出した。みぃちゃんへの揺るぎない愛情とな、のぶさんへのありがとうじゃ。これまで一緒に生きてきてくれて、みぃちゃんを最後まで愛してくれて、こんな私をいつも大事に思うてくれて、ほんにほんに、ありがとござんす。」

 

のぶ「おいおい。明日死んじゃうみたいなセリフじゃなぁ。きみと一緒にいて、無理をしたことなんて一度もないけんね。振り回された、と思ったこともない。きみのその自由で自然で、でも時折不自然な生き方には、いつも驚かされるし、愛おしいし、楽しいんじゃ。飽きることのない人生を、こちらこそありがとうじゃ。」

 

私「なんだか嫌味ともとれる愛の告白やー。」

 

(二人笑い合う)

 

のぶ「愛の告白といえば、例の30年前の人形劇の青年。きみはきっと、その青年に恋をした。」

私「あら、嫉妬?」

のぶ(笑ながら)「いやー、さすがにもうそんな歳じゃぁねえさ。僕もその青年に感謝したいんじゃ。彼のおかげで、きみは帰って来てくれた。あのとき飯田で、そんなことがあったなんて、さっきまで知らなかったからのう。

不思議だったんじゃ、いったい何がきっかけで、きみがまた僕と一緒に生きようと奮起してくれたんかと。30年の時を経てその謎が解けた。」

私「あ。そういえば、のぶさんの奇跡の話まで、回ってこなかったわね。あのまま順番まわってきていたら、どんな話をするつもりだったんじゃ? 

“この妻と出会えたことが奇跡だっ!”

なんてことを言うつもりだったんじゃ?ないやろうね。そういう冗談は、若い人たちにはドン引きされるんじゃからね!」

のぶ「はははっ。残念ながら、それは思いもつかなかった。僕の奇跡の体験は、まさに、さっき起こった。」

私「偶然出会った全員が、共通の人と巡り合っていた、、、という奇跡?」

のぶ「いいや。さらにその続きの奇跡。さっき、部屋にダウンコートを取りに戻ったとき、野田さんから僕のパソコンにメールがきたんだよ。ピコーンって。きみ、僕のパソコンの共通メールから、作曲のお礼をしていたじゃろ? 」

私「そうそう。ちゃんとお礼をしておかなくちゃって思って。

野田さん、私たちが娘を亡くしたことは知っていたみたいだけど、詳しくはのぶさんも話してなかったんじゃろ? その経緯や、さっき皆さんにも話した私の奇跡話。かいつまんでだけど、飯田の人形劇のこともメールに書いたの。

娘が死んだ後の心の動きを知っていただくのに、どうしても必要だったから。そう。どうしてこの歌詞ができたのかを、知って欲しかったから。そもそも私は野田さんに一度しかお会いしたことないけんね。きちんとお礼伝えとかんとな。と思って。」

のぶ「うん。そこなんだよ。野田さん、驚いていてね。驚いて、『奥様のお名前は、もしや示すへんに羊の子と書いてさちこさん、ではありませんか? 』と聞いてきた。」

私「へ?どういうこと?  示すへんに羊の子。そうじゃけど?

あ、そっか。私メールや手紙では、名前をひらがなで書くようにしてるからか。漢字で書くと大抵”しょうこ”と読まれるし。んあ?だから?

まさか野田さん、その私からのメールの「さちこより」を見て、”さちこ”の漢字が示すへんに羊の子ではないかと思ったってこと? ・・・え? ええっ!?」

のぶ「僕も、さっき君の飯田での話を聴きながら、もしかしてと思っていたんだ。野田さんは、器用な人で、いろんな活動をしているって話したよね。彼の活動のひとつに、一人で行う手遣い人形劇もあるんじゃ。」


N私「開いた口が塞がらない、もしくは、言葉を失うというのは、こういうことなんだろう。

オレンジ色のヘルメットの青年。つまり、山下さん家族をカモシカの大群から救った青年。つまり、さゆりさんの初恋の青年。つまり、けんごさんに生まれておいでと言ってくれた青年。つまり、私が飯田で出会った人形劇の青年は、全て同一人物だった。つまり、冴木さんの未来を示唆してくれた本の作者だった。その話で、一生分の不思議を体験した気分だった、、、それなのにまだ、続きがあったなんて。」

M私「なん、、てこと。。そうか、龍雅さんって、野田さんだったんだ。。。私の瞳を褒めてくれた、あの野田さんだった。」

N私「私の中で、今日聞いたみんなのストーリーがぐるぐるまわっていた。

人形劇の青年の若々しくはにかんだ笑顔が鮮明に現れた。

この人に私は、勇気をもらって、新しい人生が始まった。

いつかお礼が言いたくて、心の中にずっとその気持ちを宿していた。

あの時再会できていたのに、、あの青年が野田さんだったってなんでなんで気づかなかったんだろう。3年前、のぶさんのおかげで存在を知り、先日やっと奇跡的にお会いできて、ご挨拶したときの、野田さんの笑顔を思い浮かべた。ふくよかで白髪混じりの顎髭姿。悠然とした細い目の爽やかな男性。

そして同時に、あの30年前の夏の日、黒子の被り物をめくって頭上に乗せ、汗だくでキラキラ輝いていた、あの青年の満面の笑み。ああ。」

「のぶさん、私悔しいーっ! 悔しいよーっ!!」

(地団駄踏むように号泣する)

のぶ「はいはい。僕も気づいてやれずにごめんやったな。でもよかった! 次会える日が楽しみになったじゃあないか。はははっ!」

私「もう! 私は野田さんに会えたあの時に、運命的な再会と感動がほしかったんじゃっ! ずっと忘れたことなかったのに、こんなことってあるん?一生の不覚じゃわっ。 私のバカ!悔しーっ!」

のぶ「あっ、ほら。流れ星っ?こんないい歳したおばさんになっても、お母さんは落ち着きがないね~って、あの子が笑っているんじゃないか?」

 

私「もう!のぶさんひどいわっ!」

 

のぶ(笑う)

 

私(つられて笑い出す)「もう。。。」

 

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  Scene02 また会えたときに(最終回) へ続く


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【第五話】冴木さんの奇跡 Scene03 龍雅さん

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Scene03 龍雅さん

 

(SE暖炉の火が燃える音)

 

N私「冴木さんは、静かに涙を流しながら、「羅針盤」を胸の前で、ぎゅっと両手で挟み、目を瞑った。その美しさに、ああ、この人は本気で何かを探してきて、今、その答えが見つかったんだなぁと確信した。

その場にいる全員が、つられて涙を流した。

談話室は静まり返り、まるで初めて水の中に潜った時のような、そんな驚きと、清冽さとを感じていた。」

 

(SEコトン。本をテーブルの上に置く音)

 

N私「冴木さんは、手にした本を、またテーブルの中央に戻した。今度は表紙を開いた状態で。」

 

冴木「龍雅さんはあのとき、サインのほかにメッセージも添えて書いてくれていました。皆さん。これをご覧いただけますか。」

 

N私「置かれた本のすぐ前の席にいた私には、覗き込まずとも、龍雅さんが書いたというそのメッセージが見えた。そして、声に出してそれを読み上げた。」

 

私「あなたは伝える人。2021年4月、答えが見つかります。それまでは、探し続けてください。2013年11月3日、、、龍雅。。。」

 

N私「私は驚いて、夫の顔を見た。めったに泣かない夫が、目に涙を潤ませていた。」

 

山下「え? 2021年4月って、、、ええっ!今日、まだ4月だよね?」

さゆり「はい。今日は4月30日です。」


(SE山下がソファを立ち上がり、駆け寄る音)


冴木「2021年、春の宵、答えは見つかりました。私自身が何者かがわかりました。実に大きな大きな学びを得られました。みなさんに教えていただいたのです。心からお礼を申し上げたい。ありがとうございます。」

さゆり「ちょっと待ってください! そ、その龍雅さんて方が、私の、、、あの、、お兄ちゃんてこと?ですか?つまり、、同一人物、ということですか?」

けんご「あぁぁ、なんか頭がパニックだ。ちょっと整理させてください!山下さん家族を、カモシカの大群から助けてくれたバイクの青年、さゆりさんの初恋の人、僕の両親が出会って僕を導いてくれたお兄ちゃん、祥子さんが飯田で救われた人形劇の青年、これは全て同一人物で間違いないでしょう。同じ30年前のことで、皆さんの記憶も確かだし、特徴もあっている。その人が、この本を書いた、龍雅さんて人ってことですか?」

 

(SEさゆりとけんごも、椅子から立ち上がり、駆け寄ってくる音)

山下「冴木さんが龍雅さんの講演を聞かれたのが8年前で、龍雅さんは42歳だった。そのときに、大学時代にバイクで旅したエピソードを話していた。ちょっと計算するわな。42➕8で、50歳。つまり、今は50歳。そしてそこから30年前、となると20歳の大学生。、、、、時系列としては符号する。」

 

N私「テーブル席の、冴木さんの隣に座り直していた山下さんが、冷静に検証し出した。普段なら、私が誰よりも真っ先にその検証役をかってでるところだが、今日の私は頭と心がそこに追いついていない状態で、半ば呆然となっていた。」

 

私「そっかあ、、、お名前が龍雅さん、って方だったのね。。。会いたいなぁ。。。っていうかその本をまず、読ませて欲しい。。。」

 

さゆり「私も読みたいです!龍雅さんは、、、今日こうやって、私たちが、つまり自分に携わった人間が、偶然にも同じ場所に4月30日に集まることになることを、わかっていたってこと?」

 

N私「そうだ。そんな不思議な偶然があるものなのだろうか。30年前の、あの夏の日に出会った青年。あの笑顔の青年が、こんな神がかった未来を作ったのだろうか。」

 

冴木「さあ、どうでしょう。それこそ、神のみぞ知る。ですね。」

 

N私「私の記憶の中の青年が、片手に人形を持って、いたずらっ子のように笑っている姿が目にうかんだ。」

 

(SE暖炉の火が燃える音が大きくなる)
 

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 【最終話】そして、奇跡は続く Scene01 野田さんの奇跡 へつづく

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【第五話】冴木さんの奇跡 Scene02 あなたは伝える人

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Scene02 あなたは伝える人 

 

(SE暖炉の火が燃える音)

(冴木の一人語り)

 

私が、この本に出会ったのは、今から8年前のことです。

それまでの私は、大学で心理学を学び、臨床心理士の資格をとり、いくつかの会社を掛け持ちで、企業内カウンセラーの仕事をしていました。

それぞれの会社には、保健室のようなカウンセリングルームがあって、社員の皆さんの、仕事や人間関係の悩みをお聞きする仕事です。悩みなどなさそうに見える人でも、カウンセリングの時間を割り当てられ、何かお悩みはないですか? 困っていることはないですか? と声をかけると、何もない人なんていないのです。皆さん、大小あれども、なにかしらの問題を抱えているものでした。

当時の私は、まだ30そこそこでしたので、主に新入社員や若手の社員たちを担当して、カウンセリングにあたっていました。20代のサラリーマンの悩みには、人間関係であったり、プライベートな家庭の問題、人生について、生き方そのものに悩んでいたりと、さまざまなものがあります。

私は、少しでもそんな人たちの助けになれる心理士でありたいと思い、勉強もしましたし、たくさんの本も読みましたし、参考になるようなインターネット記事も、同じような仕事をされている人たちのブログもよく読んでいました。

そんな中で、とくに夢中になって更新を楽しみにしていたブログがありました。それが、この本の著者、龍雅(りゅうが)さんとおっしゃる方のブログです。

龍雅さんのブログは、「神様」と呼ばれる高次元な存在との対話がベースとなった、いわゆるスピリチュアルな内容のものでした。私は仕事柄、スピリチュアルな相談事をもちかけられることも多く、それなりに勉強してきていましたが、龍雅さんのブログは、それまで読んできた本やブログとは、一線を画すものを感じました。

言葉に嘘やでまかせがなく、真摯さが文章からも伝わってくるのです。神様との対話を通じて、筆者本人が成長していく様子も、自分ごとのように感情移入できました。ときには、読者の悩み事に答えるその内容も、私が大学で学んだ、一辺倒なありがちな回答ではなく、新しい考え方で、しかもずしんと腑に落ちるものばかりでした。

私は、本来は宗教や霊的なものを信じているわけではありません。龍雅さんの書くブログも、神様が登場しますが、それは読者に興味をもってもらい、理解しやすくするための、一種のエンターテイメントなのだと理解していました。

それでも、そんな私でさえも、本当にこの人は神という存在を知っているではないか? と思い込ませるような、、、それほど興味深いブログだったのです。

私は、毎日更新されるそのブログを欠かさず読み、過去の記事は何度も読み返し、すっかりファンになっていました。

ファンといっても、龍雅さんは、一切のプロフィールを公開していませんでしたから、文章の雰囲気で、私は勝手に、初老の穏やかなおじいさんをイメージしていました。

そんなとき、そのブログが書籍化されることになったと、龍雅さんの記事で報告があったのです。出版記念に、講演会とサイン会があると。

私は、すぐさま参加申し込みをし、当日は興奮を抑えきれず、かなり早い時間に講演会場に着いたのを覚えています。

開場時間前についてしまったので、私は受付手前にあるベンチ椅子に座っていました。受付の後ろには、講演会場の扉が開いていて、中では客席の準備がまだ終わっていない様子でした。

何人かのスタッフが、パイプ椅子を並べているのが見えました。その中の一人の男性と、目が合い、条件反射で軽く会釈をすると、その人は、作業の手を止めて、にっこり微笑んで深々とおじきをしてくれたのです。

40代半ばくらいに見える、感じのいいスタッフさんでした。そのあと、講演が始まって、はじめて、そのときの男性が、龍雅さんご本人だったと知ったのです。

講演会は小さな会場で、100人ほどの定員で満席になっていました。龍雅さんは、子どものころの経験談や、ご両親のお話、ブログを書くにいたった経緯などを話されました。

その話の中には、大学時代に小さなバイクで日本一周したというくだりもあったことを、さきほど皆さんのお話を聞きながら思い出しました。

初老のおじいさんではなく、龍雅さん、実際には42歳の、体格のよい優しげな中年男性でした。少し白髪の混じった短髪と口髭が、品の良さを際立たせており、太めのフレームのメガネが、知的さも表しているようでした。

落ち着いた低い声で、ときたま笑いを誘うように、ご自分の失敗談を交えながらの1時間。講演が終わると、そのままの会場でサイン会も行われました。

ほとんどの来場者がサインを求め、長蛇の列ができている中に、私も並びました。あらかじめ購入して、もうすでに何度か繰り返し読んだ新刊、この「羅針盤」を手に持って。龍雅さんと直にお話をしてみたかったのです。こんな機会はもう二度とないでしょうから。

龍雅さんは、並ばれているお一人お一人に、丁寧に声をかけながらサインをされていくので、なかなか行列は進まず、途中からは出版社のかたが、時間を区切って声をかけるようになっていました。30分ほど並んだでしょうか。いよいよ私の番になりました。

龍雅「今日は、早くから来てくださっていて、ありがとうございました。長くお待ちいただいてしまって、すいません。」

冴木「とんでもないです。講演、素晴らしかったです。ブログはいつも拝見していますが、こうやって生でお話聞けるなんて、感激です。ありがとうございました。」

開場前に、私と目が合ったことを、覚えてくれていたのです。

龍雅さんは、にっこりと笑って、私をじっと見つめてきました。そして、私の差し出した本の表紙をめくり、メッセージとサインを書きながら、こう言ったのです。

龍雅「あ。講演、よかったですか。ありがとうございます。でも、あなたにもできますよ。あなたは『伝える人』ですからね。ぜひ、がんばってください。大丈夫です。」

そう言って、サインを書き終えた表紙を閉じ、私に返してくれました。言ってくださった言葉の意味を聞きたくて、声を出そうとしたとき、出版社の人から終了の合図がありました。私は慌てて、握手だけもとめ、変わらずにっこり微笑んでいる龍雅さんに、後ろ髪引かれる思いで、会場を後にしたのです。

私は興奮しました。龍雅さんにかけてもらった言葉で、私はこの人に認められたんだと思ったのです。すると、不思議なもので、これまでにない自信が底からわいてくるのを感じました。

それから私は、講演の仕事を積極的にするようになりました。これまでのカウンセラーの仕事を活かし、より多くの人の悩みを少しでも軽くできるような活動をしたいと、ひたすら上を目指してきました。善を行い、人を助けることを常とし、だれからも認められる人になろうと。

「羅針盤」はその後も何度も何度も読み込みました。今では開かずとも全ての章を言えるくらいです。講演では、ときたまこの本の言葉を、我が事のように語ったこともありました。


あなたは伝える人。


龍雅さんに認められたと過剰に思い込み、偉そうに人に教え、伝えてきたのです。伝える人になるには、勉強しなくてはいけない。誰よりも秀でて、誰よりも努力をして、誰よりも素敵な生き方をして見せなくてはいけない。

と上を目指し探し続けてきたのです。

 

でも、私が探し当てるべきものは、それではなかった。。

あの日、龍雅さんには、見破られていたんです。今の私のこの高慢な姿を。格好つけていた私に対する、警鐘を先に鳴らしてくれていたのです。

それが今日やっとわかりました。

ここにいる皆さんが触れ合ったバイクの青年は、偉ぶることなく、ごく自然に、自らの力を誇示することもなく、皆さんを助け、心を救っています。押し付けることをせず、流れのまま、ありのままの自分で、ありのままの相手を認めて、笑顔で去っていく。

それこそが「本当の伝える人」なのです。

それを今日、私は気付かされました。

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 【第五話】冴木さんの奇跡 Scene03 龍雅 へ続く 


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【第五話】冴木さんの奇跡 Scene01 羅針盤

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Scene01 羅針盤

 

(SE暖炉の火が燃える音)

 

N私「談話室は静かだった。暖炉の中の火が、ときおりパチッパチッと鳴る音と、さゆりさんの小さくすすり泣く声だけが響いていた。」

 

(さゆりのすすり泣く声)

 

さゆり「ごめんなさいっ。私、、涙が止まらなくって! うううっ」

 

私(ときおり込み上げる涙をこらえるように)「私こそ、なんだかごめんなさいね。しんみりしちゃったわね。けんごさんのお話で、あんなに興奮してみんな盛り上がったのに。。。

でもね、本当に奇跡だったのよ。私にとって、あの飯田での人形劇は。そして、主人のもとに帰ってきたタイミングでの娘からの誕生日プレゼントの人形。そう。人形は生きているの。飯田で見た、あの人形たちと同じ。」

 

N私「私の右隣で夫は、夫がいつも肌身離さず持ちあるいているセカンドバッグにつけた、おかっぱ頭のマスコット人形を、ギュッと握りしめていた。私はその手に、そっと自分の右手を重ねた。」

 

私(独り言のように)「あの青年が言っていた、人形にはちゃんと命があって、それを作った人の心が入り込むという話、これは本当だ。話しかけるとだんだん答えてくれるようになる。そして、成長もする。歳もとる。だから、この人形もそう。これは、娘の魂そのものなの。お母さん。いつも見てるよ。ずうっとずっと、大好きだよ。って言ってくれているの。」

 

N私「そう。私はあのとき、椅子についていたあの子の髪の毛を、この人形の胸のポケットに入れた。丸めた髪の毛を糸で縛り、小さくまとめて入れてある。これで、私とあなたはいつも一緒だと。これは、夫にも誰にも話していない、私だけの秘密。」

のぶ「その青年が、皆さんが出会った青年と同じ人だったというのかい?」

私「ええ、おそらく。最初は気がつかなかったんだけど、けんごさんの話を聞いていて、途中から、そう、お地蔵様と青年の会話を聞きながら、思い出してきたの。

ああ、あの青年の面影にイメージが似ているなと。そう思いながら、30年前の人形劇のことを回想していたら、確かに思い出したのよ。

あの日、神社の階段の下の、駐車場隅っこに、見慣れない小さなバイクと、オレンジ色のヘルメットが置いてあった。間違いないわ。」

のぶ「思し召し、、、かのう。」

山下「なんて不思議なことか。そうか。私が出会った青年のバイクには、確かに後ろに大きな荷物が積まれていたよ。長旅の荷物だろうと思っていたが、あれには人形や劇の道具なんかが入っていた、ということか。

それにしても、、、不思議な話だ。なぜ今夜、こうやって私たちが、ここに集うことになったのか。」

 

さゆり(泣き声を堪えながら)「ほんとに、、私、今日のこの日を一生忘れません。皆さんと出会って、そしてみなさんが同じ人との奇跡を共有しあっていたと知れたこと。これまでは、あの思い出を、奇跡とまでは思っていませんでした。よくある幼い子供の淡い初恋ですから。でも、こうやって今日、皆さんとの不思議な接点を知って、あの思い出は奇跡だったんだと知りました。」

 

N私「けんごさんが、そっとさゆりさんの肩に手をかけ、優しく頭を撫でた。」

 

(SE暖炉の火が燃える音)

 

N私「しばらく続いた沈黙を、冴木さんが終わらせた。ゆっくりと、穏やかな、でも少し緊張したような言葉で。」

 

冴木「皆さんに、見ていただきたいものがあります。」

 

N私「冴木さんの手は、目の前のテーブルにおかれた、木箱の上にあった。大事そうに、両手を箱の上に重ねている。いよいよこの箱の中身が知らさせる時が来たんだと。全員が固唾を飲むように、冴木さんの手の下の木箱に注目した。」

冴木「今日、やっと答えが見つかりました。私がずっと探していた答えを、皆さんが今日ここで教えてくださったのです。」

N私「そう言って、手を震わせながら、ハラハラと涙をこぼした。そのあまりの美しい光景に、思わず見惚れてしまったのは、私だけではなかったはずだ。

そして、彼はゆっくりと木箱の蓋をあけ、とても大事そうに、愛おしそうに、一冊の本を取り出したのだった。冴木さんが大事そうに木箱から取り出した一冊の本は、表紙はさほど古くはないもののようだった。

表紙には「羅針盤」というタイトルが細く美しい文字で書かれていた。何度も読み込まれたことが、ひと目でわかるくらい、本は少しふっくら膨らんでいる。」  

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【第五話】Scene02 あなたは伝える人 へ続く 



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【第四話】私の奇跡 Scene03 娘からのメッセージ

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Scene03 娘からのメッセージ

 

私「その日、夕暮れの帰り道、主人の待つ家に、やはり帰ろうと決めました。

彼という大切な人を、いっときの感情で一人ぼっちにしようとした私。そんな私を許してくれるだろうか。

私が思い込んでいた『娘が寂しいだろうから私が死ななくてはならない』という気持ちは間違いだったと、人形劇を見て気づかされました。

残された私自身と、主人の苦しみと寂しさをしっかり見つめなくてはならない。それが先だ。

思い込んで間違うのは人間らしさ。悪かったと思えた時は、ちゃんと謝ればいい。帰って謝ろう。そう決めたら行動は早かった。

父に駅まで送ってもらう時、父がぽつりと、でも力強く、私に言ってくれました。」

 

(SE駅のホームの雑踏音)

 

父「お前が生きていてくれるなら、俺はそれだけでいい。死ぬんじゃないぞ。さちこ」

M私「そう言われたことで、父の心をも傷つけていたことがわかり、心から申し訳なくなり、大粒の涙が出ました。娘に先立たれた私と、同じ苦しみを味わせるところでした。お父さん、ごめんなさい。私、死なんから。もう大丈夫。そう言って別れました。」

 (SE 電車の到着音)

M私「岡山に着くと、主人が駅まで迎えにきてくれていました。まず最初に頭を下げた私。そんな私よりも姿勢を低く下にしゃがみ込み、頭を下げている私のまま、主人は抱きしめてくれました。涙が溢れて止まらず、改札口で声をあげて謝りながら泣いてしまいました。私だけが辛いんじゃなかった。この人の苦しみはいかばかりだっただろうか。」

 

私「(泣きながら)あなた、のぶさん、ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。(号泣)FO」

 

(SE玄関の鍵をあけて、ドアを開ける音)

のぶ「コーヒーでも、飲むかい?」

私「うん。飲む。(泣き疲れた感じ)」

(SEコーヒーを入れる音)(SE固定電話の着信音)

私「はい、古川です。」

M私「娘の残像が残る自宅の中で、辛い思いを少しづつ落ち着かせてきたとき、かかってきた電話は、娘の担任だった先生からでした。

娘が作った作品をお戻ししたい、というものでした。

私は、郵送をお願いしました。しかし先生は手渡ししたいと譲らず。

主人が電話を代わり、丁重に断るのかと思ったら、僕が貰ってくるから大丈夫。とわざわざ学校まで取りに行ってくれたのです。

私はそのままコーヒーを飲みながら、娘がいつも座っていた椅子を見ていました。よく見ると、椅子の背に髪の毛がついています。立ち上がって引っかかっている髪の毛をそっと取りました。自慢の長い黒髪が、こんなところにあったなんて。微かに香る娘の柔らかい香りに、涙がまた溢れました。

娘の名を呼びながら、居なくなってしまった寂しさに、心がまた悪い思い込みで充満しそうになってきました。

 

M私「だめよ。だめ。この現実を受け入れなくちゃ。あの子は、もうこの世にはいないの。もちろん忘れることはできない。でも、考えすぎちゃいけないんだからね。」

 

(SE玄関のドアが開き、閉まる音)

 

のぶ「ただいま。戻ったよ。祥子。誕生日、おめでとう。」

 

私(怪訝そうに)「え?誕生日はまだ明後日だけど。。」

 

のぶ「これ。」

 

(SE紙袋を渡す音)

 

Mみぃちゃん「楽しみにしててって言ったでしょ!お母さん。お誕生日、おめでとう。」

 

私「主人から渡された紙袋には、先生からのお手紙と、フェルトと毛糸でできたマスコット人形が入っていました。私の好きな緑色のワンピースに、おかっぱ頭と黄色い靴下。これは私だ。震える手でその人形を抱きしめました。」

 

のぶ「裏側を見てご覧」

 

私「人形の裏側を見た時、私の心が絶叫しました。カタカナの刺繍で、ダイスキダヨと書いてあったのです。」

 

のぶ「(涙を堪える声で)祥子。。君の誕生日に渡すつもりで、先生に教わりながら作ってあったそうだよ。その手紙も読んであげなさい。」

 

(SE手紙を開く音)

 

Mみぃちゃん「お母さん。お誕生日、おめでとう!これは、お母さんです。私の大好きなお母さん。いつも、夜遅くまで起きてお父さんのお仕事のお手伝いをして、朝早く起きて朝ごはんを作ってくれるお母さん。お仕事が大変なはずなのに、私が学校から帰ってくるといつも元気な声で「おかえりっ」て言ってくれるお母さん。私が怪我をすると、猛スピードでしょちしてくれて、ギュッと抱きしめてくれて、早く治りますようにってお祈りしてくれるお母さん。お母さんが、私のお母さんでいてくれて、私は世界一幸せ。ありがとうお母さん。生まれてきてくれて、ありがとう。私を産んでくれてありがとう。私を育ててくれてありがとう。ずっとずうっと大好きだよ!お母さん」

 

私「みぃちゃん、みぃちゃん!私も、、、あなたが、、、大好き。大好きだよ。大好き。ずっとずっと大好きだから。逢いたい!逢いたいよう。逢いたい。逢いたい。逢いたいーーー」

 

私「私は誓ったのです。その日から。ちゃんと、前を向いて生きよう。」

 

 

(SE暖炉の火が燃える音が大きくなる)

 【第五話】冴木さんの奇跡 Scene01 羅針盤 へ続く 

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私、生きます。

 

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【第四話】私の奇跡 Scene02 人形は生きている

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Scene02 人形は生きている

 

私「一時間後、私はまた同じ場所に訪れました。青年の人形劇は、他の劇団にはできないことをしました。だから次が観たくなる。

 

その理由は、演じる人形劇の内容が、違うからです。次はどんな内容で楽しませてくれるのか、二回目が終わり、また1時間後。劇の45分はあっという間なのに、次の人形劇を待っている1時間が長くて長くて。


内容は、良太が野菜を食べられるように成長して、他の野菜たちの悩み事を解決したり、観客との会話劇があったり。良太の独り言のみのバージョンがあったり。それでいて飽きない。

ほぼリピートして来ている観客たちは、すでに、良太が何を言っても笑うようになっていました。

最後の回、観客の人数は初回の倍は集まっていました。青年は、黒子を被らず顔を出したままでした。表情が見えます。良太の顔は青年の右手でぱくぱくと口が動き、手についている棒でクネクネと腕を操ります。まるで生きているかのように。

青年はやがて、腹話術で良太と会話を始めました。」

 

青年 「良太くんはこの飯田に来てよかったかい?」

 

良太 「よかった~!!!!」

 

青年 「うん。そんな顔してるね!何がよかったの?」

 

良太 「ここにいるみんなに会えたこと!一番嬉しかった!」

 

青年 「うんうん。嬉しかったね!他には?」

 

M私「だんだん観客も参加し始める。みんなの一番を発表し始める。それを良太が感動し、青年が褒める。その繰り返しです。面白い!そう思った時、不意に、私にも質問が来ました。」

 

良太 「お姉さん。お顔、痛かったでしょう。早く治るといいね!」

 

私「え?私?う。。

 

どう返せばいいのか、、、咄嗟のことで言葉が出てきませんでした。すると、」

 

青年 「良太くん。お顔も痛かったのかもしれないけど、もっと痛かったのはきっと心なんだよ。」

 

良太 「心?」

 

私「心?」

 

青年 「そう。心。怪我したときに痛いのは体なんだけど、そうなってしまった自分のことをバカだったな~、とか、あの時もっとこうしていればこんな怪我なんかしなくて済んだのに、とか。

 

周りの人にも辛い想いをさせて、私のバカばかばかって思っちゃうんだ。」

 

良太 「へえ~。人間って大変だね。」

 

青年 「おいおい。君も人間だろ?」

 

良太 「僕人形~~~」

 

(SE会場の笑い声)

M私「私は笑えなかった。心が痛い。そう。心が痛いのだ。ずっと痛かった。

 

私が娘を殺した気がしてならなかったから。

女性として、しなやかな筋肉をつけて欲しくて、はやりのスイミングを勧めたのは私。頑張ったらアイスクリームを買っていいよとお小遣いを渡したのは私。もう一人で行って帰って来れるでしょ?と言って突き放したのも私。

私が娘を死に追いやったんだ。私は悪魔」

 

青年「違うよ!」

 

M私「え?」

 

青年「良太くんは人形の形をしている人間なんだよ。僕たちは一緒。人間だ。

人間の君は、今朝、大発見をしたんだよね。

野菜を食べることができなかったのは、噛むと野菜が痛がるんじゃないかと思って噛むことができなかった。

野菜のみんなは、それは違うよと教えてくれた。音楽になって、エネルギーに変わると。」

 

良太「う、うん。そう・・・だよ」

 

青年「つまり、人間は思い込んで間違ってしまうものなんだ。」

 

良太「思い込んで間違う?あ、そういえば、僕はそんな間違いばっかりや!」

 

青年「それでいいの!間違えばいい!思い込んで考えすぎて、やってみたら全然違うことになったっていい!」

 

良太「でもそれじゃあ周りの人に迷惑かけることにならん?」

 

青年「迷惑はかけてもいいんだよ。

わざと相手を傷つけたり、暴力を振るったりして迷惑かけるのではなく、自分が信じてやったことや、思い込んで頑張ったことや、考えて動いたことで間違えたことは、謝ればいい。

ごめんなさい。と言えばいいの。

どんなに間違えたっていい。

君は君らしく、いつも本気で生きろ!」

 

良太 「わかった。僕は僕らしく!」

 

M私「その瞬間、私の中で何かが弾けました。私は私らしくでいい。間違えたらごめんなさいと言えばいい。許してくれる人がいる。主人の顔が思い浮かびました。私、、帰らなきゃ。答えが出てきたのです。

全ての人形劇が終わった後、私は、声をかけようと、後片付けをしている青年の近くに寄っていきました。すると、」

 

青年「祥子(さちこ)さん、ですか?」

 

M私「近づいてくる私に、青年が気づいて声をかけてくれました。ワークショップの名札がついたままでした。

私の名前を、初めて会った人に、さちこ、と読んでもらったことがなかったので、どきりとしました。」

 

私「はい。さちこです。。今日は、ありがとうございました。」

 

青年「あ、いえ。こちらこそ、最初から最後までずっとご覧いただいて、ありがとうございました。心強かったです!でも、失礼しました。包帯のこと、うちの良太が振ってしまって。。」

 

M私「はにかみながら答える青年の、心根の優しさと、人形劇に対する情熱の強さが、にじみ出ていました。この話し方は、人形劇とは違う、素の自分を隠さない、いや、隠せない不器用さも見える。

持っている人形を近くで見ると、全てボロボロで、手縫いで手作りのものでした。」

 

私「これ、全部ご自分で作ってらっしゃるの?」

 

青年「はい。ミシンがないんで(笑)」

 

私「いえ、お上手です。本当に生きているように見えました。」

 

青年「あ、この子たち、生きてるんです。

人形にはちゃんと命があって、それを作った人の心が入り込みます。話しかければ、だんだん答えてくれるようになってくるんです。撫でれば喜びます。たたけば痛がります。そして、成長もします。歳もとります。人形って、、、すごいんです」

M私「人形が生きている。というよりも、操る人が生かしているのだ。心が、手に伝わって、人形が喋ったり、飛んだり跳ねたり寝転んだり、泣いたり笑ったり怒ったりと感情豊かに表現される。

 

子どもたちはその人形に釘付けにされて、世界観にどっぷり浸かって大満足している。人形がすごいのではなく、あなたがすごいんです。と、思いながら、伝えることができなかった。」

 

私「青年は、慣れた手つきで後片付けをしながら、この場を去り難い子供たちの質問に丁寧に答え、お母さんからの子育ての質問にも答えたり、おじさんに今日の夜飲みに来いと誘われたりと、忙しいことになっていました。

私は遠慮して、彼の名前を聞くこともなく、大事な劇団名も知ることなく、その場から立ち去りました。でも、この胸に彼からのメッセージがしっかりと刻まれました。温かいものが私に沁み込み、そして私の心は、少しだけ強くなったのを感じました。

あの小さいバイクに乗って、次はどこで人形劇をするのだろう。

 

どうぞご無事で、と祈るばかりでした」

 

Scene03 娘からのメッセージ へ続く

 

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